ルノーの2018 Registration Documentsに含まれているKAMを読んでいこう。
EDINETにルノーの有価証券報告書が登録されており、そこに日本語翻訳が含まれている。
自動車(アフトワズを除く)部門の製造のための有形固定資産及び無形資産(自動車)の評価
識別されたリスク
事業セグメントである「自動車(アフトワズを除く)部門」の有形固定資産及び無形資産は、18,448百万ユーロにおよぶ。 ルノー・グループは、連結財務諸表に対する注記2-Mに記載のアプローチに基づき事業セグメントレベル並びに部品を含む特定の自動車に固有の有形固定資産及び無形資産のレベルで減損テストを実施する。
後者に関して、かかるテストは、部品を含む特定の自動車に固有の有形固定資産及び無形資産の正味簿価をその回収可能価額(使用価値と公正価値(処分費用控除後)のうち高い方の金額として定義される)と比較することを含む。
使用価値 は将来の割引キャッシュ・フローに基づき計算される。
注記2「会計方針」M.「減損」には、自動車部門に関連する固定資産の減損に関して以下の説明が含まれている。
(クリックして読んでください。)
自動車セグメントの減損のためのグルーピングは、自動車専用資産と、その他の資金生成単位に別れ
、そのうち、自動車専用資産の減損がKAMのリスクであるという説明である。販売金融部門や、アフトワズの減損についてはKAMとは識別されていない。なお、アフトワズというのは2018年にルノーが経営権を取得したロシア最大の自動車メーカーである。
監査人のリスク評価である。KAMと判断した理由が述べられている。
なぜ、自動車専用資産の減損だけがKAMなのかについては、「その貢献度並びにこれらのテストのために経営者に要求される見積りおよび判断」が理由とあるが、これについて理解するために、もう少し注記を読んでみよう。私どもは、財務諸表に対するその貢献度並びにこれらのテストのために経営者に要求される見積り及び判断を理由に、部品を含む特定の自動車に関連する製造のための資産の評価は、監査上の主要な事項であると判断した。
当期に認識した減損損失は、特定の自動車に固有の自動車専用資産について126百万ユーロ、そして自動車セグメントのレベルで、アルゼンチンに対する資金生成単位に対して188百万ユーロの減損損失が認識されている。
減損損失の金額としては、自動車専用資産の減損は特に大きくないが、多様な対象車種ごとに将来キャッシュフローを見積る必要があり、監査手続が複雑で、より多くのリソースが必要であったことが、自動車専用資産の減損が特にKAMと識別された理由ではないかと思う。
それでは、監査人のリスク対応手続を読んでいこう。
経営者の見積り方法の理解のための手続が説明されている。減損の兆候のある車種を特定するための経営者の分析を理解している。そのうえで、減損の兆候ありとしてテストの対象となった車種について、専用資産を特定し、帳簿にトレースしていることが説明されている。私どもの監査対応
私どもの連結財務諸表の監査における手続は、主に以下を含む。
減損の兆候がある自動車を特定するために経営者が実施した分析の理解。
減損テストの対象となる特定の資産の正味簿価と連結財務諸表の調整。
テストで使用される台数及び粗利益の仮定と経営者の最新の予測の整合性の評価。
使用される主な仮定の合理性を評価するために、テスト対象の車種を担当する事業部長と面談したり、使用される主な仮定を過去の減損テストで使用されたデータとの比較分析、さらに該当する場合は、対象の車両および搭載エンジンの過去の業績との比較分析を行った。
減損の対象となる車種は必ずあるため、毎期必ず実施される減損テストとして、確立されたプロセスや内部統制があると思われるが、そのような内部統制をどのように評価したかについては言及されていない。
減損テストで使われるキャッシュフローの前提となる販売台数や粗利益といった仮定について、経営者の最新の予測との整合性を評価している。さらに合理性を評価するために、その車種を担当する事業部長との面談をおこなっている。
このような評価においては、自動車業界の専門家を利用することも考えられるが、言及されていないことから、監査人は監査チーム内のメンバーで十分な専門性があると判断したものと考えられる。
データの合理性の評価にあたって、過去の減損テストで使用されたデータと比較分析したり、対象の車両および搭載エンジンの過去の業績との比較分析を行っている。ここのポイントは、過去の減損テストで使用したデータとの比較であろう。それによって過去の減損テストでの仮定の合理性が遡及的に評価され、経営者の見積りの精度も考慮されるのである。重要な会計上の見積りのテストにおいては、重要な手続である。
次に実証手続を読んでいこう。
減損テストの対象となる自動車について経営者が作成した割引後キャッシュ・フロー予測の計算上の正確性のテスト。
使用された税引後割引率と利用可能な外部データの比較。
使用された主な仮定に係る感応度分析の実施。
ISAは、マネジメントがどのように不確実性に対処したかについて監査人が評価することを要求しているが、それについては言及されていない。
全体的な感想として、実施すべき手続についてはかなりのレベルで書かれていると思われる。ただし、内部統制やマネジメントによる不確実性への対応についての評価についても言及されていればと感じる。また、手続の結果についても何も述べられていないのは残念である。