KAMの事例でコーポレートガバナンス

2020年から日本でも導入されるKAM(Key Audit Matter)。日本では「監査上の主要な検討事項」と呼ばれ、企業の監査における重点領域に関する情報が、監査報告書で報告されるようになる。この監査における重点領域は、いわゆるリスクアプローチによって決定されることから、KAMを理解するためには、リスクアプローチの理解が重要になる。グローバル企業の監査に長年携わってきた監査のプロフェッショナルが、KAMの事例を紹介しながら、社外取締役や監査役などガバナンス責任者、さらに投資家などの方々に、KAMを理解すれば何がわかるのか、そして何がわからないのかについて、できるだけ簡単な言葉で、わかりやすくアドバイスします。

上場企業のガバナンス責任者は、KAMをテコにして、監査法人の監査手続に対する理解を深め、企業のガバナンスを強化することができます。投資家は、KAMを理解することにより、アニュアルレポートによる企業の開示をさらに深く理解することができます。 監査における情報の非対称性を解消し、資本市場の健全化に貢献したい。そのためのブログです。

2019年10月

KAMの事例分析 - (仏)ルノー(1)


ルノーの2018 Registration Documentsに含まれているKAMを読んでいこう。
EDINETにルノーの有価証券報告書が登録されており、そこに日本語翻訳が含まれている。

自動車(アフトワズを除く)部門の製造のための有形固定資産及び無形資産(自動車)の評価

識別されたリスク

事業セグメントである「自動車(アフトワズを除く)部門」の有形固定資産及び無形資産は、18,448百万ユーロにおよぶ。 ルノー・グループは、連結財務諸表に対する注記2-Mに記載のアプローチに基づき事業セグメントレベル並びに部品を含む特定の自動車に固有の有形固定資産及び無形資産のレベルで減損テストを実施する。
後者に関して、かかるテストは、部品を含む特定の自動車に固有の有形固定資産及び無形資産の正味簿価をその回収可能価額(使用価値と公正価値(処分費用控除後)のうち高い方の金額として定義される)と比較することを含む。
使用価値 は将来の割引キャッシュ・フローに基づき計算される。


注記2「会計方針」M.「減損」には、自動車部門に関連する固定資産の減損に関して以下の説明が含まれている。
(クリックして読んでください。)
減損

自動車セグメントの減損のためのグルーピングは、自動車専用資産と、その他の資金生成単位に別れ
、そのうち、自動車専用資産の減損がKAMのリスクであるという説明である。販売金融部門や、アフトワズの減損についてはKAMとは識別されていない。なお、アフトワズというのは2018年にルノーが経営権を取得したロシア最大の自動車メーカーである。

監査人のリスク評価である。KAMと判断した理由が述べられている。

私どもは、財務諸表に対するその貢献度並びにこれらのテストのために経営者に要求される見積り及び判断を理由に、部品を含む特定の自動車に関連する製造のための資産の評価は、監査上の主要な事項であると判断した。

なぜ、自動車専用資産の減損だけがKAMなのかについては、「その貢献度並びにこれらのテストのために経営者に要求される見積りおよび判断」が理由とあるが、これについて理解するために、もう少し注記を読んでみよう。

減損(1-1)
減損(1-2)

当期に認識した減損損失は、特定の自動車に固有の自動車専用資産について126百万ユーロ、そして自動車セグメントのレベルで、アルゼンチンに対する資金生成単位に対して188百万ユーロの減損損失が認識されている。 

減損損失の金額としては、自動車専用資産の減損は特に大きくないが、多様な対象車種ごとに将来キャッシュフローを見積る必要があり、監査手続が複雑で、より多くのリソースが必要であったことが、自動車専用資産の減損が特にKAMと識別された理由ではないかと思う。

それでは、監査人のリスク対応手続を読んでいこう。

私どもの監査対応

私どもの連結財務諸表の監査における手続は、主に以下を含む。

  • 減損の兆候がある自動車を特定するために経営者が実施した分析の理解。

  • 減損テストの対象となる特定の資産の正味簿価と連結財務諸表の調整。

  • テストで使用される台数及び粗利益の仮定と経営者の最新の予測の整合性の評価。

  • 使用される主な仮定の合理性を評価するために、テスト対象の車種を担当する事業部長と面談したり、使用される主な仮定を過去の減損テストで使用されたデータとの比較分析、さらに該当する場合は、対象の車両および搭載エンジンの過去の業績との比較分析を行った。 

経営者の見積り方法の理解のための手続が説明されている。減損の兆候のある車種を特定するための経営者の分析を理解している。そのうえで、減損の兆候ありとしてテストの対象となった車種について、専用資産を特定し、帳簿にトレースしていることが説明されている。

減損の対象となる車種は必ずあるため、毎期必ず実施される減損テストとして、確立されたプロセスや内部統制があると思われるが、そのような内部統制をどのように評価したかについては言及されていない。

減損テストで使われるキャッシュフローの前提となる販売台数や粗利益といった仮定について、経営者の最新の予測との整合性を評価している。さらに合理性を評価するために、その車種を担当する事業部長との面談をおこなっている。

このような評価においては、自動車業界の専門家を利用することも考えられるが、言及されていないことから、監査人は監査チーム内のメンバーで十分な専門性があると判断したものと考えられる。

データの合理性の評価にあたって、過去の減損テストで使用されたデータと比較分析したり、対象の車両および搭載エンジンの過去の業績との比較分析を行っている。ここのポイントは、過去の減損テストで使用したデータとの比較であろう。それによって過去の減損テストでの仮定の合理性が遡及的に評価され、経営者の見積りの精度も考慮されるのである。重要な会計上の見積りのテストにおいては、重要な手続である。


次に実証手続を読んでいこう。

  • 減損テストの対象となる自動車について経営者が作成した割引後キャッシュ・フロー予測の計算上の正確性のテスト。

  • 使用された税引後割引率と利用可能な外部データの比較。

  • 使用された主な仮定に係る感応度分析の実施。

キャッシュフローを算定するにあたっての計算チェック、割引率の外部データとの比較とともに、仮定の感応度分析を行っていることが説明されている。
ISAは、マネジメントがどのように不確実性に対処したかについて監査人が評価することを要求しているが、それについては言及されていない。

全体的な感想として、実施すべき手続についてはかなりのレベルで書かれていると思われる。ただし、内部統制やマネジメントによる不確実性への対応についての評価についても言及されていればと感じる。また、手続の結果についても何も述べられていないのは残念である。


KAM(1)

KAM(1_E)

 

KAMの事例分析 - (仏)エアバス SE(7)

今回はエアバスSEの最後のKAMを読んでいこう。KAMのタイトルは「CSALPの買収」である。4つ目のKAM「不利な契約の会計処理と契約マージンに関する見積りと、一定の期間にわたる重要な契約の契約マージンの見積り」でも言及された当期の重要な取引である。取得原価配分(PPA)で認識された総資産は6,846百万ユーロで、そのうち3,891百万ユーロがのれんである。

エアバスSEの2018年アニュアルレポートはこちらからダウンロードできる。120-125頁の6ページにわたって監査報告書が含まれている。
CSALP取得取引の詳しい内容については、こちらの記事も参考にしてほしい。

それでは監査人のリスク評価を読んでいくことにしよう。

CSALPの買収(PPAに関連する判断)


リスク説明


2018年7月1日、我々はCシリーズ・エアクラフト・リミテッドパートナーシップ(CSALP)事業体の50.01%パーセントのクラスA所有権を取得することにより、ボンバルディアのCシリーズプログラムの支配を獲得しました。事業体は2018年7月1日に連結されました。

会社は取得原価配分(「PPA」)を実施し、38億ユーロののれんを計上しました。


将来のキャッシュフロー、予想されるシナジー効果、割引率などの主要な仮定に関する重要な判断を考えると、CSALP取引に関連するPPAはKAMであると判断しました。


財務諸表の注記6.1「取得取引」を参照。

CSALPの取得取引についてPPAを実施し、38億円ののれんを計上したという説明である。リスクについてはPPAがKAMであるとの説明であるが、特に将来キャッシュフローやシナジー効果について言及されているので、のれんや無形資産の評価がリスクの主眼であると考えられる。

注記6.1「取得取引」に含まれているPPAの要約は以下のものである。のれんとして3,891百万ユーロが計上されている。また無形資産1,377百万ユーロも見積りとしては重要であるし、引当金2,609百万ユーロには、3つ目のKAMである不利な契約から生じた負債が含まれている。

(クリックして読んでください。)
PPA
PPAのリスクをより深くを理解するために脚注も読んでいこう。

(1)無形資産:主に、A220プログラムで取得した技術関連の無形資産です。プログラムの公正価値は、「長期超過利益率法」を使用して測定され、個別に評価されるバックログ内の既存の契約を除く、将来の納入から生じる税引後キャッシュフローの現在価値と等しく評価されます。この技術関連無形資産は、プログラムの耐用年数にわたって提供されると予想される航空機の数で償却されます。


 (2)棚卸資産:棚卸資産の公正価値は、契約上の正味販売価格を考慮して測定されています。 


(3)取得した顧客契約:これは、取得したすべてのバックログに含まれる顧客契約に関連して、その見積り履行費用が契約上の販売価格を超える金額の現在価値を表します。 見積り履行費用には、売上マージンで認識される直接費用と、予測キャッシュフローの生成に貢献する他の資産に必要なリターンを反映するキャピタルチャージの両方が含まれます。 この負債は、負債の測定において考慮された航空機の納入に基づいて売上原価の減少としてリリースされます。


(4)非支配持分:エアバスは、非支配持分(ボンバルディアのプットオプションおよびケベック州投資公社(IQ) プットオプションの見積行使価格について、金融負債を公正価値で認識しています。当社の会計方針によれば、負債の公正価値の変動は資本に直接認識されます。 


(5)譲渡対価:エアバスはCSALPの50.01%を取得するために1株あたり1米ドル(754株)を支払い、クラスBボンバルディア社普通株1株を、2.29カナダドルの行使価格で取得するワラントを1億受け取りました。 2018年7月1日現在の公正価値は263百万米ドルで、移転した対価はマイナスです。 


(6)のれん:のれんの大部分は、識別可能な純資産の公正価値測定に含まれない、買収から見込まれるエアバスに対するシナジー効果を表しています。これらのシナジー効果は、主に、航空機の販売量の増加と製造コストの削減の見込みに関連しています。 CSALPは、現金生成単位(「CGU」)エアバスの一部であり、毎年減損テストが行​​われます。 CSALPの取得減価配分後の期首貸借対照表は、2018年7月1日時点で監査済みです。IFRS3「企業結合」によると、CSALPの期首貸借対照表は、2019年7月1日までの12か月の取得原価配分期間中に変動する可能性があります。 2018年7月1日時点のこれらの金額の認識または測定に影響を与えていたと考えられる新しい情報を反映するため、当初の会計処理を遡及的に変更します。

シナジー効果は、ボンバルディアのCクラスをエアバスが販売することにより、既存のエアバスの機体の売上の増加やコストの削減にどれくらい貢献するかという見込みである。そのような超過収益力がのれんを構成している。
シナジー効果を反映した事業の将来キャッシュフローに基づいて、取得価格が決定され、それを識別可能資産、負債の評価額に配分(PPA)し、差額がのれんとして計上される。技術関連無形資産、顧客契約といった無形資産や、非支配持分のプットオプションの公正価値評価には、見積りの要素が大きい。
また、減損テストは、のれんのみならず、無形資産を含む固定資産についても資金生成単位(CGU)の単位で毎期行われる。

これらをざっと理解した上で、監査人のリスク対応手続を読んでいこう。

我々の監査上の対応


CSALP投資の会計処理に関して、購入契約書を閲覧し、会計上の論点を検討し、非支配持分のプットオプションの評価、公正価値調整額を含む資産および負債の識別と評価、さらに、割引率や予想されるシナジー効果など重要な評価の仮定を批判的に検討しました。取得原価配分の監査を支援するために、公正価値評価専門家をチームに含めました。

まずはマネジメントがどのように会計上の見積りを行っているかを理解している。マネジメントがどうやって見積もっているのか、特に少数株主持分のプットオプションの評価、のれんの評価にあたってのシナジー効果や割引率などの仮定について批判的に検討したという説明である。また、PPAの公正価値の評価にあたって専門家を利用している。

これまでのKAMも会計上の見積りであったが、すべて監査上の対応として内部統制の評価が含まれていたが、PPAについての上の説明の中には、内部統制についてどのような検討をしたのかは言及されていない。ルーティーンのプロセスでない場合は、内部統制のついて言及しない場合が多いが、社内の稟議書類や取締役会やなどに対する報告資料をレビューすることにより、企業内のレビューや承認プロセスを評価することは重要な手続だと思う。同じく企業結合に関するロシュのKAMを参照してほしい。

PPAを行うにあたっての前提となるCSALPの財務諸表の検証が必要であるが、下を読むと、CSALPの財務諸表はE&Yによって監査されていることが説明されている。

また、取得日における期首残高および2018年12月31日に終了した6か月間の結果について、EY監査人からCSALPの監査報告書を入手しました。我々は監査指示書を発行し、重要な虚偽表示リスクや、監査人による報告が必要な情報を含む、重要な監査領域をカバーしました。さらに、現地のマネジメントと監査人に会うために現場を訪問し、監査人と電話会議を行い、監査調書のレビューを行いました。サイト訪問、電話会議、調書レビューを実施するとともに、現地での監査のアプローチとともに、発見事項や所見を批判的に検討し、レビューしました。 

エアバスSEもボンバルディアも同じE&Yが監査している。エアバスSEのE&Y監査人は、ボンバルディアの監査チームに、CSALPの監査を指示し、監査報告書を入手している。エアバスSEの監査のために、取得日である2018年6月30日の期首残高と2018年12月31日までの6か月間の監査を依頼している。

グループ監査と同じアプローチで、現地の監査チームとのディスカッションやミーティング、調書のレビューなどを行ったことが説明されている。同じネットワークファームなので、マニュアルなども共通でスムーズなやり取りができたと考えられる。

最後に、PPAの仮定が許容範囲内であり、開示も適切であるという所見が述べられている。

CSALPのPPAに関連する仮定が許容範囲内であると判断し、財務諸表で適切な開示が行われたと判断しました。

PPAの仮定が許容範囲という判断したとあるが、ここが非常に重要なポイントで、監査人として特に注意をはらった領域なので、KAMへの対応手続の説明の中で、もう少し踏み込んだ説明があってもいいと思う。主要な仮定として、感応度分析を実施した上で、重要な虚偽表示リスクが生じるリスクが限定的であるという判断であると思うが、その判断のプロセスがこの一文では理解できないのではないかと思う。この辺りもロシュのKAMを参考にしてもらえればと思う。



(参考) 監査報告書に記載されているKAMの原文 (クリックして読んでください。)
KAM(6)
 

KAMの事例分析 - (仏)エアバス SE(6)

エアバスSEのKAMをこれまで4つ読んできたが、いずれも航空機メーカー特有の収益認識や開発費の減損リスクという側面が強かった。インダストリーが特殊であるということでもあるが、企業の固有のリスクが良く理解できる内容であったと思う。今回は金融商品の評価なので、より航空機メーカーとは関係のないリスクのように見えるが、KAMが識別している企業固有のリスクがどこにあるかを考えながら読み進めたい。

エアバスSEの2018年アニュアルレポートはこちらからダウンロードできる。120-125頁の6ページにわたって監査報告書が含まれている。

それでは、監査人のリスク評価を読んでいこう。

デリバティブ金融商品(IFRS 9を含む)


リスクの説明


エアバスSEは、通貨および金利の変動にさらされるビジネス環境で事業を展開しています。会社の売上の大部分は米ドルで占められていますが、その費用の大部分はユーロで発生し、ポンドはほとんどありません。これらのリスクに対応するため、会社は金融商品(主に為替先物予約)を使用して、マーケットの変動に対するエクスポージャーを緩和しています。我々の連結財務諸表には、金融商品の評価と財務諸表の表示および開示の両方において、高い固有のエラーのリスクがあります。


ヘッジポートフォリオの規模と米ドルに対するユーロの為替レートの大幅な変動は、ヘッジポートフォリオの「時価評価」を通じて会社の連結持分に重要な影響を及ぼす可能性があります。


財務書類の注記35「金融商品に関する情報」を参照。

IFRS 第9号「金融商品」でのヘッジ会計の適用がリスクである。エアバスSEは、コストはユーロで発生し、売上はドルで入金されるため、為替変動のリスクにさらされている。そこで、為替先物予約でリスクをヘッジするとともに、ヘッジ会計を適用することにより、ヘッジの効果を財務諸表に表している。金額が大きいため、為替レートが大きく動いた場合に、時価評価することになると財務諸表に大きな影響があることがリスクであるという説明である。IFRS 第9号に従ったヘッジ会計の処理が間違っているリスクや、ヘッジ会計を適用するための要件が満たされていないリスクをKAMと考えているのであろう。

注記35「金融商品に関する情報」には、ヘッジ会計の適用に関する以下の説明が含まれている。

民間航空機製品に関しては、2018年6月30日まで、当社は通常、「ファーストフローアプローチ」を使用して、米ドルでのファームコミットメントされた売上をヘッジしました。そのアプローチの下で、当社が締結した為替デリバティブは、所定の月の航空機引渡し時に顧客から受け取った米ドルのファーストフローをヘッジとして指定しました。

このストラテジーは、航空機の引渡し時に行われる予想月次顧客支払いの一部のみがヘッジされることを意味しています。このため、延期または注文キャンセルの結果としての毎月の現金流入の減少は、特定の月の航空機の納入時に受け取った実際の米ドルの現金流入が、その月にヘッジされています。

ただし、航空機の引渡し時に受け取った毎月の米ドルのキャッシュインフローが、その月に満期となるヘッジの想定元本よりも少ないと予想されるか、またはそれが確実となった場合には、ヘッジ想定元本の超過分は、ヘッジ会計の適格性を失い、関連する公正価値の変動または決済による利益または損失は当期の経営成績に認識されることになります。


 2018年6月30日現在、当社は、特定の航空機タイプの民間航空機の納入に起因するネットのエクスポージャー(米ドル売上から米ドル費用を差し引いたもの)をヘッジする新しいヘッジ戦略を採用しました。このストラテジーは、ヘッジ会計とリスク管理活動をより密接に連携させ、「注記4:会計方針および開示の変更」で説明されています。 


新しいストラテジーでは、ヘッジ手段として使用される外国為替デリバティブは、特定の月に発生すると予想される特定の航空機タイプの多数の納入のそれぞれについて受け取ったキャッシュフローの一部のヘッジとして指定されているため、納入が変更された場合に、ヘッジの効果がヘッジされた納入に合わせて移動できるようにします。 

予定取引についてキャッシュフローヘッジを適用する場合のヘッジ対象の決定方法を当期において変更していることが説明されている。航空機の納入スケジュールがずれることによる外貨(USドル)流入のタイミングがずれた場合のヘッジ対象を識別するストラテジーを変更しており、これが会計方針の変更に該当することが説明されている。

このヘッジ戦略の変更について、「注記4:会計方針および開示の変更」にさらに詳細な説明があるのでこちらも読んでみよう。

新しいヘッジ戦略


2018年6月30日現在、当社は、特定の航空機タイプの民間航空機の納入に起因するネットのエクスポージャー(米ドル収益から米ドル費用を差し引いたもの)をヘッジするために、新しいヘッジ戦略を採用しました。このストラテジーは、ヘッジ会計とリスク管理活動をより密接に連携させます。


新しいストラテジーの下で、ヘッジ手段として使用される外国為替デリバティブは、特定の月に発生すると予想される特定の航空機タイプの多数の納入のそれぞれについて受け取ったキャッシュフローの一部のヘッジとして指定します。従来の使用された最初のフローアプローチ(「注35.1:財務リスク管理」で説明)とは対照的に、新しい戦略では、特定の航空機タイプごとの一定の月間納入数にヘッジ手段を割り当てます。また納入のシフトが発生した場合に、ヘッジ効果もヘッジされた納入に沿って移動させます。 


このようなヘッジされた納入のシフトが発生した場合、ヘッジ手段の満期とヘッジされたキャッシュフローの予想されるタイミングが完全に整合しなくなるため、ヘッジの非有効性が生じます。こうした非効率性を最小限に抑えるため、当社は外国為替スワップ契約を使用してヘッジを新しい満期にロールオーバーすることにより、タイミングのギャップを埋めます。ヘッジ効果は、ヘッジされた納入とともに移動します。さらに、当社は、異なる満期間のフォワード・ポイントの変更に起因する非有効部分を排除するために、直々差額の変化のリスクをヘッジ対象として指定します。直先差額は、オプションの時間価値と同様にヘッジ費用として計上されます。 


IFRS 第9号を将来に向かって適用する場合、新しいストラテジーの開始時に設定されたレガシーポートフォリオの公正価値は、以前のファーストフローヘッジによって引き続きヘッジ対象であるキャッシュフローに割り当てられ、ヘッジ対象のキャッシュフローが満期となり損益として認識されるまで、その他包括利益の繰延ヘッジ損益に含まれます。(キャッシュフローが発生しないと予想される場合を除く)。 


将来に向かって適用した結果、新しいストラテジーの下で指定されたヘッジ手段は、ヘッジ開始時において、正または負の公正価値を持ち、これもまた若干の非有効性を生み出す可能性があります。 


非有効性のもう1つの原因は、ヘッジポートフォリオ固有の、取引相手に対する信用リスクです。本来、ヘッジされたキャッシュフローには信用リスクがありませんが、すべてのヘッジ取引相手とネッティング契約があります。また、当社は投資適格取引相手とのみ取引する方針を採用しているため、ヘッジ手段から生じる信用リスク、および関連する信用リスクの変化は、過去においても無視できる程度であり、今後も同様に予想されます。 


それ以外の場合にグループが使用するヘッジ戦略は、IFRS 第9号への移行前に使用されたものと本質的に同じであり、「注記35.1:財務リスク管理」で詳細に説明されています。場合によっては、ヘッジの有効性を向上させるために、IFRS 第9号への移行時に通貨ベーシススプレッドがヘッジから除外されました。通貨ベーシススプレッドの変動は、オプションの時間価値と同様のヘッジ費用として計上されます。このヘッジ指定の変更は、2018年1月1日時点で包括利益または資本に影響を与えることはなく、ヘッジが満期になった場合の将来の利益および損失にも影響しません(例外的な状況が適用される場合を除く)。


ヘッジ戦略の変更によって生じるヘッジの非有効性によって、ヘッジ会計の適格性が失われることへの対応が説明されている。こういった会計方針の変更も、監査人がこのリスクをKAMと判断した理由と考えられる。

それでは監査人のリスク対応を読んでいこう。

監査上の対応


金融商品の監査では、専門家を利用し、財務部門の集中管理システムの内部統制をテストするとともに、財務ポートフォリオの評価額を独自計算し、ヘッジ会計ルールの適用と結果として生じる会計処理をテストをしました。このプロセスでは、ヘッジ会計の有効性テストの基礎として使用されるデリバリープロフィールも評価しました。

エアバスSE全体の為替リスクが、財務部門で集中管理されていることがわかる。監査人は金融商品の評価専門家を利用し、集中管理のプロセスと内部統制を理解するとともに、コントロールのテストを行っている。特に、ヘッジ対象とヘッジ手段が明確になっているか、ヘッジの有効性評価が適切かどうかについてIFRS 第9号のヘッジ会計ルールの適用が適切かどうかをテストしている。デリバリープロフィールというのは、機体などの納入スケジュールを指していると思われるが、これに基づいてヘッジの有効性が評価されているため、このデリバリープロフィールが適切に作成されているかどうかをテストしていると考えられる。

さらに実証手続についての説明である。

実在性と所有権を検証するために、金融商品の未決済残高について、相手先からの確認書を入手しました。


デリバティブ金融商品のサンプルに基づいて、金融商品の評価は事前に定義された許容可能な差異の閾値内であり、重大な例外は認められないと評価しました。 

為替先物予約の未決済残高について、銀行などから確認書の回答を入手している。また、為替先物予約のポートフォリオからサンプルを抽出し、監査人が独自に計算した評価額と、帳簿計上額との差が、許容範囲内であることをもって適切であると判断している。分析的実証手続である。

2018年の財務諸表デリバティブ金融商品のためのマネジメントの会計処理(IFRS第9号を含む)に関連する我々の手続の結果は良好であり、我々は財務諸表には、適切な開示が行われたと判断しました。

最後に監査人の所見として、マネジメントの会計処理が適切であり、また開示も適切であると説明されている。

当初は、デリバティブ金融商品の評価ということで、一般的なリスクかと当初は思ったが、読み進めていくと、ヘッジ戦略の変更が絡む重要なリスクであることがわかった。企業のことを理解する監査人がKAMとして識別している以上、それだけの理由が存在するものであり、KAMを読むには、そのレベルまで理解することが重要だと感じた。

ISA701は、監査人がKAMの中でリスクについて説明し、KAMとして識別した理由について説明することを求めている。しかしながら、KAMを読んでもリスクの内容が十分に理解できず、関連する注記を読んで初めて理解できる場合が多い。
このKAMも、タイトルは「デリバティブ金融商品(IFRS 第9号の適用を含む)」であったが、当期の監査を考えた場合、監査人が特に注意を払ったリスクは、ヘッジ会計の適用であり、特に当期にヘッジ戦略を変更したことによるヘッジ有効性の評価のはずである。
また、KAMとした理由についても、「ヘッジポートフォリオの規模と米ドルに対するユーロの為替レートの大幅な変動は、ヘッジポートフォリオの「時価評価」を通じて会社の連結持分に重要な影響を及ぼす可能性があります。」と説明しているが、この説明自体は、金額的に重要な予定取引をヘッジしている会社であれば当てはまることであるし、当期の監査との関連性もわからない。

KAMのリスクの説明は簡潔に書くことはもちろんであるが、当期の監査において監査人が特に注意をはらった理由をわかりやすく説明をしてほしいと思う。

(参考) 監査報告書に記載されているKAMの原文 (クリックして読んでください。)
KAM(5)
 

外国企業の有価証券報告書に含まれるKAMの紹介

2019年10月7日時点で、EDINETに、KAMの含まれている財務諸表を登録している外国会社のリストを作成してみた。なお、EDINETとは、"Electronic Disclosure for Investors' NETwork"の略であり、金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システムである。

これらの企業は、外国企業であるが、日本で有価証券を発行して資金調達していることから、有価証券の届出と継続開示が求められている。金融商品取引法に従って、本国の財務諸表の翻訳を有価証券報告書として登録している。

現地の監査で、すでにKAMが導入されているので、これらの財務諸表の監査報告書にはKAMが含まれている。しかも、すべて日本語に翻訳されているので、是非クリックして参照してほしい。

欧州企業だけでなく、中国や香港、韓国、マレーシア、オーストラリア、さらにはアラブ首長国連合などの先行事例も参照できる。業種としては、日本で資金調達している企業ということで、金融機関が多い。
また、中には、日本企業の海外子会社も含まれているが、これらの会社は親会社より先にKAMが開示されている。

これらのKAMのいくつかは、このブログで一つ一つ読んでいきたいと思っている。
(2019年10月7日時点)
トヨタ モーター ファイナンス (ネザーランズ) ビーブイ(オランダ)
ノムラ・ヨーロッパ・ファイナンス・エヌ・ブイ (Nomura Europe Finance N.V.)(オランダ)
株式會社ケーティー(KT Corporation)(韓国)
ロイズ・バンク・ピーエルシー(英国)
エア・リキード・エス・エー(L’AIR LIQUIDE S.A.)(フランス)
ドイツポスト・アーゲー(ドイツ)
フランス相互信用連合銀行(フランス)
モンクレール・エスピーエー(イタリア)
ノルデア・バンクAbp(フィンランド)
クレディ・スイス・グループAG(スイス)
中国人民財産保険株式会社(中国)
ユービーエス・エイ・ジー(スイス)
シンセン・インベストメント・ホールディングス・ベイ・エリア・ディベロップメント・カンパニー・リミテッド(香港)
クレディ・スイス・エイ・ジー(スイス)
オレンジ(フランス)
ファースト・アブダビ・バンク・ピー・ジェー・エス・シー(First Abu Dhabi Bank P.J.S.C.)(アラブ首長国連合)
ドイツテレコム・アーゲー(ドイツ)
ビーポスト・エスエー/エヌヴィー(ベルギー)
中国工商銀行股イ分有限公司(中国)
フランス電力(フランス)
ハンファ・ケミカル・コーポレーション(韓国)
コスコ・シッピング・ディベロップメント・カンパニー・リミテッド(中国)
コスコ・シッピング・ホールディングス・カンパニー・リミテッド(中国)
ビー・エヌ・ピー・パリバ(フランス)

中国建設銀行股イ分有限公司
チャイナ・シェンフア・エナジー・カンパニー・リミテッド(中国)
Genting Singapore Limited(シンガポール)
ドイツ銀行(ドイツ)
東風汽車集団股イ分有限公司(中国)
チョンホア・テレコム・カンパニー・リミテッド(中国)
エスエイピー・エスイー(ドイツ)
OPコーポレート・バンク・ピーエルシー(OP Corporate Bank plc)(フィンランド)
シャンハイ・エレクトリック・グループ・カンパニー・リミテッド(中国)
株式會社ポスコ(韓国)
新韓銀行(韓国)
スヴェンスカ・ハンデルスバンケン・エイ・ビー・プブリクト(Svenska Handelsbanken AB (publ))(スウェーデン)
株式會社大韓航空(韓国)
エネル・エスピーエー(イタリア)
チャイナ・コール・エナジー・カンパニー・リミテッド(中国)
WHグループ・リミテッド(萬洲国際有限公司)(ケイマン)
AIAグループ・リミテッド(香港)
現代キャピタル・サービシズ・インク(韓国)
エンデサ(スペイン)
ロッテ・ショッピング・カンパニー・リミテッド(Lotte Shopping Co., Ltd.)(韓国)
中国農業銀行股イ分有限公司(中国)
中国光大銀行股イ分有限公司(中国)
コメルツバンク・アクツィエンゲゼルシャフト(ドイツ)
チャイナ・テレコム・コーポレーション・リミテッド(中国)
バンク・オブ・チャイナ香港(ホールディングス)リミテッド(香港)
中国人民保険集団股イ分有限公司(中国)
中国銀行股イ分有限公司(中国)
クレディ・アグリコル・エス・エー(フランス)
ビー・ピー・シー・イー・エス・エー(フランス)
チャイナ・シティック・バンク・コーポレーション・リミテッド(中国)
ザ・ホンコン・アンド・シャンハイ・バンキング・コーポレイション・リミテッド(香港)
ソシエテ・ジェネラル(フランス)
ナティクシス(フランス)
招商銀行股イ分有限公司(中国)
ルノー(フランス)
チャイナ・ライフ・インシュアランス・カンパニー・リミテッド(中国)
クレディ・アグリコル・コーポレート・アンド・インベストメント・バンク(フランス)
コーペラティブ・ラボバンク・ウー・アー(オランダ)
マラヤン・バンキング・ベルハッド(マレーシア)
エイチエスビーシー・バンク・ピーエルシー(英国)
バイエル・アクツィーエンゲゼルシャフト(ドイツ)
ビート・ホールディングス・リミテッド (貝德控股有限公司、Beat Holdings Limited)(ケイマン)
ナショナル・オーストラリア・バンク・リミテッド(豪州)
ワイ・ティー・エル・コーポレーション・バーハッド(マレーシア)
オーストラリア・ニュージーランド銀行(豪州)
ウエストパック・バンキング・コーポレーション(豪州)
オーストラリア・コモンウェルス銀行(豪州)



KAMの事例分析 - (仏)エアバス SE(5)

エアバスSEの4番目のKAMはプログラム関連資産の減損リスクである。 民間航空機の開発コストは機体設計に導入される技術や設計の斬新さなどにもよるが、数百億円と多額に上るものも多い。大きな専用の治具やツールを製作する必要があり、型式証明取得のために、さまざまなシミュレーションや試験飛行を行う必要がある。その開発コストは、派生型も含めた、その後の機体の納入から生じる長期のキャッシュフローから回収されるため、リスクも高い。

エアバスSEの2018年アニュアルレポートはこちらからダウンロードできる。120-125頁の6ページにわたって監査報告書が含まれている。


それでは、リスクの説明と監査人のリスク評価を理解することにしよう。

重要なプログラムに関連する資産の回収可能性


リスクの説明


資産化された開発コスト、治具、ツール、および棚卸資産は、主にA350、A400M、A380、NH90などの主要プログラムに関連しています。


資産の減損を認識する必要があるかどうかを判断するには、将来のキャッシュフローの見積りが必要です。契約のキャンセルのリスクに加えて、発見された性能上の問題を修正するために必要な是正措置に関連して、多大な費用や売上の減少が生じる可能性があり、重要な監査領域として識別されています。なぜなら、コストの将来予測、減損や引当金の決定に関係する契約上および商業上の立場の解釈には、固有の不確実性があるためです。これらの引当金の見直しは、会社の経営成績と財政状態に大きな影響を与える可能性があります。


財務諸表の注記2「重要な会計方針」、注記21「棚卸資産」および注記22「引当金、偶発資産および偶発負債」の開示を参照。


減損損失の認識には、将来キャッシュフローの見積りが必要であり、そのキャッシュフローの見積りには、将来に起こり得る契約キャンセルや、機体の不具合に対する是正措置のコストも合わせて見積る必要があり、重要な監査領域としている。さらに、IFRSの減損損失は毎期見直しされ、資産価値が回復すれば戻入れが行われる。そのため、減損費用の決定のみならず、その後の戻入れについても重要な不確実性があることが説明されている。

注記2「重要な会計方針」には、資産化された開発費について、以下の説明が含まれている。
資産計上された開発費は、無形資産として認識されるか、あるいは関連する開発活動が、生産に特化したツールの製作(「治工具またはツール」)か、プロトタイプやモデルの設計、構築、テストを伴う場合は固定資産のいずれかとして認識されています。 資産計上された開発費は、通常、生産されると見積られる機数にわたって償却されます。 生産される機数の見積りに信頼性がない場合は、自己創設の無形資産の見積り耐用年数にわたって償却されます。 資産化された開発費の償却費は、売上原価として認識されます。

開発費の償却は、そのプログラムで何機生産されるかの見積りに依存していることが説明されている。機数の見積りに信頼が無い場合は、自己創設無形資産の見積り耐用年数で償却している。

それでは、次に監査人のリスク対応手続を読んでいこう。

監査上の対応
減損を識別して記帳するための内部統制のデザインと実装を評価し、実証手続として、プログラム管理者とプログラム責任者への質問するとともに、他の監査証拠での裏付るといった実証手続を実施した。
これまで読んできたKAMと同様に、マネジメントのプロセスとコントロールを理解するために、内部統制のデザインと実装の評価を行っている。

A350、A400M、A380、NH90などの主要プログラムのマネジメントおよび責任者に質問するとともに、他の監査証拠での裏付けをとっている。いわゆる確証的質問という手続である。これを実証手続の一部として説明しているが、実証手続として説明するのであれば、詳細テストまたは分析的実証手続として、何をテストしたのかについてもう少し具体的な内容が知りたいと感じる。

次に、マネジメントが会計上の見積りに使った仮定の評価を行っている。

我々は、実現売上や発生費用(契約上のペナルティを含む)、売上マージンの見積りにおいて、マネジメントが使用した仮定を評価しました。我々の評価の一部は、過去の期間における我々の見積りの過去の正確性の評価であり、偶発性の分析と、コスト予測および引当金に対する既知の技術的問題の影響が含まれていました。さらに、A380に関して、プログラム固有のRLIの償還に関するマネジメントの見積りを評価しました。

マネジメントの仮定を評価するにあたっては、過去の見積りを実績と比較することにより、マネジメントの見積り能力や精度を評価している。この辺りは、機体設計の技術的な問題も絡んでくるので専門家の利用が効果的だと思うが、言及されていないとするところから、監査チームとしては監査チーム内に十分な専門性を備えたメンバーがいるという判断だったと思われる。

RLIとはRepayable Launch Investmentであり、新しい機体の開発にあたって、政府が行う投資であり、機体がローンチされて商業ベースにのればリターンが返ってくるものである。実質的な政府補助金であり不公正な貿易慣行として、ライバル社のボーイングを抱えるアメリカ政府が批判しているのがこれである。通常は機体が納入されるたびにロイヤリティーとして返還されるものであるから、A380のように当初見込まれた納入機数を大幅に下回って取りやめになってしまったプログラムの場合に、どれだけ返還すべきかは契約と交渉によるところがあるのであろう。A380プログラムのRLIをどれくらい返還しなければいけないかというのも重要な会計上の見積りということである。

前回の記事でも引用したが、注記10「売上および売上マージン」に含まれるA380の注記である。
2018年、同社にとって最大のA380オペレーターは、航空機フリート戦略を見直し、A380の注文を39機削減する必要があると結論付けました。 当社は、2018年後半にこの顧客との協議を開始し、最終的に2019年2月11日に契約書への署名に至りました。 これまで販売、マーケティング活動を続けてきましたが、この顧客の注文が無くなった結果、バックログはほとんどなくなり、このプログラムを継続する意味が失われました。 この決定の結果、A380の納入は2021年で終了します。

当社は2018年末時点において、A380プログラムに割り当てられている特定の資産に関して期待されていた市場の仮定および回収可能性と減価償却方法を再評価しました。 その結果、当社はA380の特定の資産について167百万ユーロの減損を行うとともに、1,257百万ユーロの不利な契約引当金を認識し、返金可能な前受金と経過利息の再測定を合計1,426百万ユーロしましたその結果、不利な契約に対する引当金ならびにその他の特定の引当金の認識および負債の再測定は、税引前連結損益計算書に純額で463百万ユーロのEBITのマイナスの影響を及ぼし、その他の財務結果に177百万ユーロのプラスの影響を与えました。 


注記23に、この政府からの返金可能な前受金の金額が開示されている。長期と短期を合わせて1,324百万ユーロ減少している。上の1,426百万ユーロとの差額は経過利息だと思われる。

RLI
脚注3にこのRLIについて、以下の説明がされている。
脚注3
欧州政府からの返金可能な前受金は、特定のプロジェクトの研究開発活動に
リスクシェアベースのファイナンシングとして当社に提供されたものです。つまり、プロジェクトの成功を条件として欧州政府に返済されます。
リスクシェアベースのファイナンシングと説明しているところがポイントだと思うが、本当にこの金額で、各国政府との間で合意ができているのかというところを監査人は検討したはずである。もう少し踏み込んだ説明があればと思う。

KAMのリスクは、資産の回収性がリスクとなっているが、リスク対応手続では、前受金の返還義務の評価についても合わさった説明となっている。
最後に、財務諸表で適切な開示が行われたと判断しました。
最後に開示の検証を行っていることが説明されているが、監査人としての所見や、リスク対応手続の結果については言及していないタイプの書き方である。上のRLIのような開示も含めて問題ないと言っているので、リスク対応手続の結果として問題は認識されなかったという理解で良いと思う。


(参考) 監査報告書に記載されているKAMの原文 (クリックして読んでください。)
KAM(4)

 
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