今回は、ノムラ・ヨーロッパの最後のKAM 「関係会社への貸付金および前払金の評価」を読んでいこう。

ノムラ・ヨーロッパの有価証券報告書はEDINETで参照できる。監査報告書付きの財務諸表が原文と日本語訳を読むことができるので、是非参照して欲しい。

まずは、監査人のリスク評価と、KAMとして識別した理由の説明である。
IFRS第9号にもとづく信用損失引当金の算定について簡単な説明から始まっている。

リスク

ノムラ・ヨーロッパファイナンスエヌブイは2018年4月1日よりIFRS第9号「金融商品」を適用している。IFRS第9号は信用リスクに係る減損の方法として予想信用損失に基づいた新たなモデルを制定している。信用引当金は、当初認識時以降、信用リスクが著しく増加していない限り、向こう12ヶ月のデフォルト確率に起因する予想信用損失に基づいている。なお、当初認識時以降、信用リスクが著しく増加している場合には、引当金は当該資産の予想残存期間におけるデフォルト確率に基づくこととなる。

IFRS第9号では、貸付金の信用損失引当金については、将来1年間にわたっての予想信用損失を引き当てること求めているが、当初認識後、信用損失が著しく増加した場合には、その貸付金の残存期間全体の予想信用損失を引き当てることを求めている。

次に、監査人がKAMと判断した理由である。

我々は、財務書類の注記 5において開示されている関係会社への貸付金および前払金を監査上 の主要な事項として認識している。その判断は、ローン・ポートフォリオの大きさとIFRS第9号の適用の本質的な複雑さ、および減損が損益計算書に重要な影響を及ぼす可能性に基づいている。

判断の理由は、ローンの金額が大きく減損損失が財務諸表に与える影響が大きいことと、IFRS第9号の適用に関する本質的な複雑さがを理由にKAMと判断したという説明である。これまでのKAMと同様に具体的な説明にはなっていない。経営者の判断による会計上の見積りであることからリスクが高いという判断がKAMとした主な理由だと思われる。

それでは、このリスクに対応する監査人の手続を理解しよう。

我々の監査アプ ローチ

我々は、減損のプロセスとモデルについての理解を得ることによって関係会社への貸付金および前払金の評価を検証した。我々は、予想信用損失を算定するために使用されているモデルの評価を内部の専門家の補助を得ながら行った。我々は、信用リスクの著しい増加を判定するための基準を検証し、内部の信用格付けの正確性をテストした。 我々は、内部の専門家の補助を得ながら将来の予測を含むデフォルトの確率の決定を評価した。

監査人は、内部統制の理解と評価のために、減損損失算定のプロセスと、モデルについて理解したという説明である。また、監査人は、モデルを理解するにあたって金融商品の専門家の補助を得たことが説明されている。
また、信用損失は、貸付金の信用格付ごとに見積もられるデフォルト確率に基づいて算定されることから、その信用格付けが正確であるかどうか、特に、信用リスクが著しく増加し、1年分の予想損失でなく残存期間全体の予想損失を計上する必要があるかどうかの判断について、その正確性を検証している。デフォルト確率の決定方法についても専門家の補助を得ながら評価したことが説明されている。

次に実証手続である。

さらに、我々は移行日および事業年度の終了日において減損引当金の計算を行った。 加えて、我々は関連する開示の正確性と網羅性をテストした。

IFRS第9号の適用開始への移行日と、監査対象事業年度末時点の減損損失引当金を監査人が独立的に計算を行い、会社の計上額を検証している。さらに関連する開示の正確性と網羅性のテストを行ったという説明である。

具体的な監査手続の概要としては、通常の手続である。KAMと判断したリスクの説明があまり具体的でないため、リスク対応手続としても具体的には記載されていない。このあたりは、ドイツ銀行のKAMと比較してもらえればと思う。

最後に監査人の主要な見解である。

重要な見解

我々は、実施した監査手続に基づき、関係会社への貸付金および前払金についての評価は適切であると認識している。 関係会社に対する貸付金および前受金に関する開示はEU-IFRSに定められている要件を満たし ている。

関係会社の貸付金および前受金の評価について、手続にもとづいて適切であったという説明である。また開示についてもIFRSの要件を満たしているという監査人の所見が示されている。


(参考) 監査報告書に記載されているKAMの原文 (クリックして読んでください。)
ノムラ_KAM(3)

 ノムラ_KAM(3E)