ルノーの二つ目のKAMは、日産に対する持分法投資の減損リスクである。

原文は、ルノーの2018 Registration Documentsに含まれている。また、EDINETにルノーの有価証券報告書が登録されており、そこに日本語翻訳が含まれている。

監査人のリスク評価からであるが、まず、持分法投資の金額が20,538百万ユーロということで、その減損リスクなので、KAMにならない方がおかしいリスクともいえる。
日産に対するルノーの持分投資の連結方法及び回収可能価額

識別されたリスク

2018年12月31日現在、日産に対するルノーの持分投資は、20,583百万ユーロに達 し、ルノーの当期純利益に対する日産の寄与額は1,509百万ユーロである。

連結財務諸表に対する注記12で示されているように、ルノーは日産に対し重要な 影響力を有しており、その投資を持分法を用いて会計処理している。ルノーの財務諸表を作成するために使用される日産の財務諸表は、日本の会計基準に従って公表された日産の連結財務諸表に、ルノーの連結目的でIFRSに基づく調整を加えたものである。

ルノーは、減損の兆候がある場合には、減損テストを実施する。

ルノーの財務諸表を作成するために、①ルノーが日産に対する持分法の会計処理を行っていることの判断の妥当性、➁日本基準で作成された日産の財務諸表をIFRSに調整したものを使っていること、さら③ルノーの連結レベルでの減損の兆候の識別と減損テストがリスクとして識別されている。会計上の見積りに関するリスクである。

これに3つのリスクそれぞれについてKAMが識別されている。

私どもは、ルノーの連結財務諸表に対するその重要性を考慮し、また、

  1. アライアンスのガバナンス構造並びに日産に対するルノーの重要な影響力の基礎と なる事実及び状況を評価するための経営者の判断、

  2. 日産の業績及び資本に おけるルノーの持分を会計処理するために必要とされる日産の財務諸表に対する 調整並びにその正確性、

  3. 日産に対するルノーの投資の回収可能価額を決定する上で経営者により使用される見積りを考慮し、日産に対するルノーの持分投資の連結方法及び回収可能価額は、監査上の主要な事項であると判断した。

日産に対する持分法投資に対するKAMが、3つのより具体的なKAMから構成されていることがわかる。

リスクの説明としては、具体的で分かりやすい。

それでは、これらのKAMに対する監査人の対応はどのようになっているのであろうか。

私どもの監査対応

識別されたリスクに対する私どもの監査対応は主に以下を含む。

  • 取締役会議事録、関連当事者契約・委任記録の閲覧。また、日産のガバナンスに変更がないこと及び/又はルノーにより行使される日産に対する重要な影響力の分析の修正につながるルノー及び日産間の関係を構築する新たな契約がないことについて経営者から確認を得ること。

  • 私どもの監査の目的のために必要な実施すべき手続及び必要な結論様式を含め た監査指示書に従い、日産の独立監査人の実施した手続や導出された結論の理解。

  • ルノーの会計方針に合致させるために必要な日産の財務諸表に対する均質化調整について、日産の独立監査人が実施した監査業務の理解。

3つの具体的なKAMについてそれぞれリスク対応手続が記載されている。
①については、取締役会議事録などを読んで、日産のガバナンスや、ルノーの日産に対する影響力に変更がないことを確認し、持分法投資の会計処理が引き続き妥当であることを確認している。また、経営者からも直接確認を得ていることがわかる。
➁については、コンポーネントとしての日産を監査している日本の監査法人に対して監査指示書を発行し、実施した手続と結論を理解することによってリスク対応をしている。特に、ルノーのIFRSベースの会計方針に合わせるための均質化調整(homogenization adjustment)に関する理解を行っていることがわかる。この理解の中には、日産のIFRS調整に関係する内部統制の理解も含まれていると考えられる。

次に、③の減損テストや開示に関する手続である。

  • 識別された減損の兆候、日産が事業を行う市場における主要な指標の著しい悪化又は日産の株式市場価格における重大且つ長期的な下落が存在するかどうかの評価。

  • 日産に対するルノーの投資の回収可能価額を確認するために実施される減損テストでルノーが使用した主な仮定の妥当性を、日産の中期計画、日産により達成された過去の業績及び自動車部門の全体的な見通しを参照して評価すること。

  • 連結財務諸表に対する注記における情報の妥当性の評価。

減損テストは、ルノーの連結財務諸表レベルで行われており、監査人は、まず減損の兆候の有無に関する評価として、日産のビジネスが属するマーケットの主要な指標に重大な懸念が無いかどうか、日産の株価に重大かつ長期的な下落が無いかどうかを評価している。

さらに、減損テストで投資の回収可能価額を算定するにあたって、ルノーが使用した仮定の妥当性を評価している。なお、仮定の妥当性については、日産の正式な経営計画として中期計画との整合性とともに、日産の過去の財務成績と照らし合わせて合理性の評価を行っていることがわかる。自動車部門の全体的な見通しを参照して評価したあるが、過去の財務成績のみならず、今後の自動車部門の売上見通しも参照しながら、過度に楽観的、あるいは保守的になっていないかといった評価を監査人がおこなったことが説明されている。

全体的に、監査人のリスク評価や、監査人がリスクに対応する上での目の付け所は理解できるの内容であるが、記載はかなりあっさりしている。ただし、減損テストにあたって、経営者が不確実性リスクにどのように対応しているかどうか、会社の内部統制に不備があったかどうかについての言及はない。また、監査人の手続の結果についての説明は含まれていない。フランスのKAMとしては標準的なレベルだと思うが、英国やオランダのKAMで見られるような踏み込んだ内容が欲しいところである。

KAM(1)

KAM(2_E)