フランス納税グループの繰延税金資産の回収可能性

ルノーの三つ目のKAMは、繰延税金資産の回収可能性である。

原文は、ルノーの2018 Registration Documentsに含まれている。また、EDINETにルノーの有価証券報告書が登録されており、そこに日本語翻訳が含まれている。

それでは、監査人のリスク評価から読んでいこう。リスクの内容は繰延税金資産の評価である。178百万ユーロの繰延税金資産を回収するのに十分な課税所得を将来にわたって生み出せるどうかについての判断が監査上の主要な事項となっている。 
会計上の見積りに関するリスクであり、KAMとしては典型的なものの一つといえるであろう。

識別されたリスク
連結財務諸表に対する注記8-Bで示されるように、フランス連結納税グループに関 して、178百万ユーロの繰延税金資産純額がルノーの連結貸借対照表に計上されて いる。 かかる繰延税金資産の価値は、フランス納税グループの法人が、経営者の予想財務業績を達成する能力に依拠する。

この資産の回収可能性は、とりわけグループを構成する法人の繰越欠損金を使用する能力に関して、経営者に要求される判断の水準を考慮して、監査上の主要な事項である。



注記8-Bの内容であるが、注記の内容も、178百万ユーロの繰延税金資産が、収益項目からマイナス98百万ユーロ、その他の包括利益項目から276百万ユーロから構成されているという説明と、実効税率が2017年から上昇したのは、アルゼンチンやインドで発生した損失について繰延税金資産を認識しなかったことが理由であることが説明されている。特にリスクを示すような記述はない。

監査人が繰延税金資産の回収可能性について評価するにあたって、将来課税所得の十分性以外に、どういう点に注意をはらったかはわからない。

DTA(3)

次に、監査人のリスク対応を読んでいこう。

私どもの監査対応

識別されたリスクに対する私どもの監査対応は主に以下を含む。

・ フランス納税グループの予想財務成績と、取締役会で承認されたルノー・グループの中期計画の基礎となる主な仮定の整合性の評価。

・ 予算プロセスの信頼性を評価するための前期の予算と実際の実績の比較。

リスク対応手続には、内部統制の評価や、経営者が会計上の見積りの不確実性にどのように対応したかについての言及も含まれていない。税務専門家を利用したかどうかもわからない。

グループレベルの将来利益予測と、中期経営計画の整合性を評価したこと、前期の予算と実績を比較して、予算の信頼性を評価したことはわかるものの、手続の結果についての言及もなく、これまで読んできた、英国やオランダのKAMのような踏み込んだ記載はない。

(参考) 監査報告書に記載されているKAMの原文 (クリックして読んでください。)
KAM(3-1)
KAM(3-2)


KAM(3_E)