ルノーの四つ目、最後のKAMは、IFRS第9号に基づく、予想信用損失の計算について識別されたリスクである。

原文は、ルノーの2018 Registration Documentsに含まれている。また、EDINETにルノーの有価証券報告書が登録されており、そこに日本語翻訳が含まれている。

まずは、監査人のリスク評価、さらに監査人として、特に注意を払う必要がある重要な事項として識別した理由を読んでいこう。

新たなIFRS第9号の会計基準に基づく販売金融債権に係る予想信用損失の計算

識別されたリスク

ルノーの販売資金調達活動は、個人及び企業に対する専用オファー並びにディーラー・ネットワークの資金調達を通じてRCIバンクにより管理されている。 RCIバンクは顧客がその財務上の義務を果たせないことにより生じる損失のリスク をカバーする引当金を確保している。

2018年1月1日から、RCIバンクは、IFRS第9号「金融商品」を適用しているが、これは、予測モデルに基づいて引当金を見積もる新たな手法を定め、発生損失モデルに基づく減損モデルから予想信用損失に基づく予測モデルへと移行するものである。

IFRS第9号基準適用の影響は、連結財務諸表に対する注記2-A1に詳細が記載され ている。2018年1月1日現在の期首貸借対照表に対する影響は、-94百万ユーロにのぼる(RCIバンクからの-128百万ユーロを含む)。そのうち、-116百万ユーロ (-121百万ユーロのRCIバンクの寄与を含む)は、信用リスクの悪化に伴う減損計上(繰延税金を除く)によるものである。

上の説明で、参照されたいる注記2-A1の該当部分は以下のとおりである。
IFRS第9号適用の影響による、販売金融債権に係る減損の手法における変更の影響として-116百万ユーロが開示されている。

IFRS9(1)
IFRS9(2)

この-116百万ユーロの影響について、監査人が識別したリスクについて、監査人は以下のように説明している。

私どもは、ルノー・グループの貸借対照表の資産の部における顧客及びネット ワークの貸付額の大きさ、計算モデルにおける数々のパラメーター及び仮定の使用並びに予想信用損失を見積もる上で経営者による判断を用いることから、2018 年1月1日時点の本基準の初度適用及び2018年12月31日に終了する会計年度に対するその適用の実施が監査の主要な観点であると考える。

まず、RCIバンクの貸付金の金額が大きいこと、さらに計算モデルにパラメータが組み込まれていて、仮定を使用しながら信用損失を見積っており、経営者の判断が用いられていることがリスクだという説明である。2018年1月1日時点での初度適用と、2018年12月31日までのIFRS第9号の適用にリスクが識別されており、それがKAMであるというのが監査人の判断である。


それでは、監査人のリスク対応について読んでいこう。

私どもの監査対応

私どもの手続は主に以下を含む。

  • 重要な論点においてIFRS第9号の原則に準拠していることを確認すべく、モデル構築の際に使用する方法論的な原則の評価。 これらのモデルに適用されるか、又は過去の会計年度における実際の損失の事後レビュー(バック・テスト)に含まれる主要なパラメーター及び仮定の検証に関して確立されたガバナンスの評価。
  • 予想信用損失の計算に関わるプロセスの主要な内部統制、ITアプリケーショ ン、管理会計データの出力及びアプリケーション間のインターフェースの評価。
監査人はまず、モデル構築の方法論的な原則から評価している。さらに過去のパラメーターを事後レビュー(バックテスト)することにより精度を評価するとともに、仮定の検証のための社内にどのようなガバナンスが確立されているかを評価している。

さらに、IFRS第9号により導入された予想信用計算プロセスの内部統制をIT統制も含めてテストしていることが説明されている。

前回の繰延税金資産の回収可能性のKAMでは、監査人のテストの内容しか記載されていなかったが、企業のガバナンスや内部統制の評価についても言及されているのは、注目に値する。

次に、監査人が実施した手続であるが、まず顧客に対する信用リスクについて、以下のように説明されている。

顧客の信用範囲において

  • 顧客信用契約の典型的なサンプルを基準とする、対応する契約に係る「デフォルト可能性」及び「デフォルトにおける損失」パラメーターの妥当性の テスト及び評価。
  • 同じサンプルを基準とする、会計年度の期首及び期末の会計状態における「予想信用損失」 (ECL)の再計算。 
顧客向けの信用リスクについては、顧客信用契約からサンプルを抽出し、デフォルト確率やデフォルト時損失の妥当性をテストし、期首、期末時点のインプットで再計算することにより、計上されている予想信用損失が正確に計算されているかをチェックしている。

次に、ディーラー・ネットワークに対する信用リスクについて、監査人が実施した手続として以下のように説明されている。

ディーラー・ネットワークの信用範囲において

  • データ処理のテスト、対応する契約に係る「デフォルト可能性」及び「デフォルトにおける損失」パラメーターの妥当性の確認及び評価。
  • 当年期首の会計状態におけるフランスの範囲及び2018年12月31日現在の ディーラー・ネットワーク信用データの網羅性における「予想損失」の再計算。
  • 予想損失リスクの計算プロセスのなかで、データ処理のロジックや、インプットであるデフォルト確率やデフォルト時損失の妥当性を確認している。
  • 期首時点での予想損失の再計算およびデータの網羅性チェックをフランス国内およびディーラーネットワークについて実施している。

その他に実施した手続が以下のように説明されている。

  • とりわけマクロ経済要因のシナリオ、これらのシナリオの加重値及びリスク。
  • パラメーターに対するその影響の設定に使用される仮定における、(将来に関 する) ECL見積もりの予測部分の決定に使用される手法の評価。
  • 顧客及びディーラーに対する貸付並びに予想信用損失に対する減損の変化に係る分析的手続の実施。
  • 連結財務諸表に対する注記2-A1に記載される開示の妥当性の評価。
  • 予想損失モデルで考慮されているマクロ経済要因のシナリオに基づくリスクと、それぞれのシナリオがどのように加重されているかを評価している。経営者が、会計上の見積りの不確実性にどのように対応しているかが評価されている。
  • デフォルト確率などのパラメーターから、将来損失予測の算出までの手法について評価。
  • 顧客およびディーラーネットワークに対する貸付金残高と信用リスクの減損との関係について分析的手続。
  • 上の注記2-A1の開示の妥当性の評価。

専門家の利用について言及がないことや、内部統制の評価の結果、不備があったかどうかについての言及はないものの、前回の繰延税金資産のKAMに比べて、手続の内容が広範囲かつ詳細に説明されている。

このリスクが監査人にとっても特に重要なKAMであり、特別な検討を要するリスクとしても識別されているからであろう。単に説明が詳細だけでなく、実施された手続自体も詳細でよりリスクに対応できる手続であったことがわかる。

手続の結果については言及されていないなど、投資家にとっては少し物足りない部分もあるが、ガバナンス責任者については、上に説明されているそれぞれの手続について監査人とコミュニケーションすることにより、より監査人とリスク評価を共有し、リスクへの対応についても共通の認識を得ることも可能になると思われる。


KAM(4-1)
KAM(4-2)

KAM(4_E)