内部統制のテストの場合、リスク評価手続でデザイン(整備)とインプリメンテーション(実装)がテストされ、リスク対応手続で、オペレーション(運用)がテストされるということはこちらで説明したとおりであるが、実証手続の場合は、リスク対応手続として実施される。
実証手続は、分析的手続と、サンプリングによるテストの2つにわかれるが、分析的手続といった場合は、リスク評価手続でも行われる。そこで、リスク対応手続として行われる分析的手続を分析的実証手続と呼んでいる。したがって、より正確にいうと、実証手続は分析的実証手続とサンプリングによるテストの2つに分かれるということになる。

リスク評価手続で行われる分析的手続と、分析的実証手続の何が違うかというと、まず、目的が異なる。リスク評価で行われる分析的手続は、あくまでリスクを識別するための分析である。また、分析の方法も趨勢分析や比率分析などであり、異常が無いかといった分析が行われる。その結果、説明がつかないような異常な増減が識別された場合、監査人は、さらに分析を行うのである。その結果、虚偽表示リスクが識別された場合は、そのリスクに対する対応手続をデザインすることになる。一方、リスク対応手続で行われる分析的手続、すなわち分析的実証手続は、もっと実証的な目的で実施され、例えば、検証したい帳簿残高に対して、帳簿と独立したデータをつかった期待値との比較において、その残高の正しさを検証するのである。監査人は、帳簿残高と期待値との比較において、許容誤差と比較し、許容範囲内であれば、その残高が正しいと判断するのである。

リスク対応手続では、サンプリングによるテストも行われる。監査のリソースは限られているため、通常の実証手続では、母集団をすべて検証することはせずに、サンプリングによりテストで母集団全体についての結論を出すのである。したがって、サンプルに対してテストした結果が、母集団全体をテストした結果であると合理的に結論づけることが必要である。そのため、監査人は母集団から偏りなくサンプルを抽出することが必要であり、これを代表サンプリングという。代表サンプリングの方法はいくつかあるが、統計的に行う場合と、非統計的サンプリングに分かれる。統計的サンプリングは、金額単位抽出法といって一定の金額ごとに母集団を分割しながらサンプルを抽出する方法が良く使われる。非統計的サンプリングは、金額をベースに抽出できないケースなどに、乱数などを使いながら、恣意性の介入しない選び方をする場合で、無作為サンプリングなどが該当する。

一方、リスクアプローチで、リスクが高いと考えられるサンプルを抽出し、重点的にテストすることも、監査人の判断により行われるのである。この場合は、代表サンプリングではないので、サンプルに対するテスト結果を母集団に対するテスト結果として結論づけることはできない。そのため、残りの母集団(これを残余母集団)について、代表サンプリングを行うことが必要となる。