エアバスの2つ目のKAMは、収益認識のリスクであるがこういったビジネスを考えれば当然であろう。IFRS 15の初度適用も含むとされているが、IFRS 15の適用が無くてもKAMであったと思う。
2018年アニュアルレポートはこちらからダウンロードできる。120-125頁の6ページにわたって監査報告書が含まれている。
それでは、まず監査人によるリスク評価を読んでいこう。
リスクの説明を記む限りは普通の収益認識リスクのようである。ただし、契約は少数であるが、金額の巨額で、回収が長期にわたるもので構成されている。また、バックログというのは受注残である。一定期間にわたって進捗度に応じて収益が認識される場合、このバックログは、未履行の履行義務として取り扱われている。収益認識、IFRS 15の適用を含む
リスクの説明
エアバスAEは、2018年1月1日に新しい基準を採用し、完全遡及適用アプローチを使用し、完了した契約および契約の修正においては実務上の簡便法を選択した。契約に含まれる履行義務の特定と、履行義務への取引価格の配分には判断が必要であり、企業の業績と財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。さらに、長期契約について1年間に認識される収益および利益の額は、履行義務の完了段階の評価、ならびに推定総収益および推定総コストに依存します。
バックログの金額は、注記に記載されています。
財務諸表の注記2「重要な会計方針」、注記3「重要な見積り及び判断」、注記9「セグメント情報」および、注記10「収益と売上総利益率」の開示参照
それでは参照されている注記を見ていくことにしよう。
まずは、注記2「重要な会計方針」の中に、IFRS 第15号に関する以下の開示がある。
2018年1月1日、当社はIFRS第15号「顧客との契約からの収益」およびIFRS第9号「金融商品」の新しい基準を導入しました。その結果、当社は収益認識および金融商品の会計に関する会計方針を変更しました。詳細については、「注記4:会計方針および開示の変更」を参照してください。上記に伴う、最も重要な会計方針の更新についての説明は以下のとおりです。
収益の認識—収益は、当社が顧客に約束された商品またはサービスの支配権を移転したときに認識されます。当社は、商品またはサービスの譲渡と引き換えに当社が権利を得ると予想される対価について、収益を測定します。将来、収益の大幅な戻入れが起こらない可能性が高い場合、変動対価は取引価格に含まれます。当社は、契約のさまざまな履行義務を特定し、これらの履行義務に取引価格を割り当てています。前払金および納入前の前受金(契約負債)は通常の取引であり、契約上の義務を履行できない顧客から会社を保護することを目的としているため、重要な財務構成要素とはみなされません。
民間航空機の売上による収益は、ある時点(すなわち、航空機の引き渡し時)で認識されます。当社は、価格譲歩額を収益と売上原価の両方の減少として見積もっている。
軍用機、宇宙システムおよびサービスの売上からの収益—生産された商品または提供されたサービスの制御が時間とともに顧客に移転する場合、収益は一定の期間にわたって進捗度に応じて認識されます。
当社は以下の場合に、時間の経過とともにコントロールを移転します。
代替的要とのない財を生産し、顧客の都合で契約が終了した場合でも、当社は既に完了した作業に対して取り消し不能な権利(合理的なマージンを含む)を有する場合(例:Tiger契約、A400M開発履行義務);。
顧客がコントロールする財を生産または改良することにより、財を創出する場合(ユーロファイター契約、一部の国境警備契約など)。
会社から提供された便益(メンテナンス契約など)を顧客が受け取ると同時に消費する場合。
一定の期間にわたって進捗率に応じて収益認識を行う場合、履行義務の完全な充足に向けた進捗状況の測定は、インプット(すなわち、発生コスト)に基づいて行います。
上記の基準のいずれも満たされていない場合、収益は一定時点で認識されます。収益は、IFRS 15に基づく軍用輸送機の販売、A400Mローンチ契約、およびNH90シリアルヘリコプターのほとんどの契約による航空機の引き渡し時に認識されています。
IFRS第15号「顧客との契約からの収益」
2014年5月、IASBはIFRS第15号を発行しました。これは、収益を認識する時期と認識する金額を決定するための単一の包括的な枠組みを確立します。 IFRS 15は、以前の収益認識基準であるIAS 18「収益」およびIAS 11「建設契約」および関連する解釈を置き換えました。 IFRS第15号の中核となる原則は、事業体が収益を認識し、約束された商品またはサービスの支配権の移転(履行義務)を、事業体が受ける対価を反映する金額で認識することです。
当社は、完全遡及法を使用して、2018年1月1日に新しい基準を採用しました。したがって、当社は2018年のIFRS連結財務諸表に含まれる2017年の比較結果を修正再表示しました。 2017年1月1日時点の期首剰余金は修正再表示された。
当社は、完了した契約および契約変更に関する実務上の簡便法を選択しています。その結果、当社は、2017年内に開始および終了した、または2017年1月1日までに完了した契約については修正再表示していない
当社は、比較期間では変動対価を見積るのではなく、契約が完了した日の取引価格を使用しました。当社は、履行義務の識別、取引価格の決定および配分において、2017年1月1日より前に発生するすべての修正を影響を合算した上で反映しています。
これらの実務上の簡便法の適用により、特に複雑な取引(例えば、軍事契約に関する契約上の修正)に関する効率的な基準の適用と、IFRS 15に基づく関連情報の提供が可能になります。
また、実務上の簡便法は、残りの履行義務(すなわち、バックログ)に割り当てられた取引価格と、その金額を収益として認識すると予想される時期を比較情報なしで説明するためにも適用されました。。
当社は、「注2:重要な会計方針」に記載されているように、収益認識に関する会計方針を改訂し、IFRS第15号を実施しました。最も著しい改訂は、以下のものです。
IAS第11号(例えばA400M、NH90契約)の下で、単一の契約マージンを認識する代わりに、いくつかの履行義務が識別されるようになりました。IFRS 第15号のもとで、一定の期間にわって、進捗度に応じて収益認識を行う要件が満たされ無い場合があります。特に、A350ローンチ契約、A400Mシリーズの生産および特定のNH90契約の場合、航空機の製造に関連する収益および生産コストは一定時点で認識されます(たとえば、顧客への航空機の納入時)。
IFRS第15号では、認識された収益の大幅な戻入れが将来発生しない可能性が高くなるように、収益の測定において変動対価に係る制限が考慮されます。一部の契約(A400M)の完了時の収益を評価する際の制限により、認識される収益が減少します。
一定期間にわたり、進捗度に応じて収益認識する方法を適用するために、当社はアウトプット(達成されたマイルストーン)ではなくインプット(すなわち発生コスト)に基づいて履行義務の完全な履行までの進捗度を測定します。当社はこれまで、長期にわたる工事契約の場合、進捗度は通常、達成されたマイルストーンに基づいて測定してきました(例:タイガープログラム、衛星、軌道インフラストラクチャ)。 IFRS第15号の下で、当社は、進行中の作業のコントロールが一定期間にわたって顧客に移転する場合は、コスト対コストのアプローチによって進行中の作業の進捗度を測定します。
IFRS 第15号は、エンジンの売上による収益の表示にも影響を与えました。 IAS 第18豪の下で、当社は、価格に関する譲歩のないことが確認できるまで、顧客との契約額に基づいて収益を認識しませんでした。一方、IFRS第15号は、すべての場合において、価格の譲歩額を見積り、譲歩を収益および売上原価の減少として処理することを要求しています。 IFRS 第15号では、当社のエンジンサプライヤーが顧客に付与した譲歩額を見積り、収益と売上原価を減少させます。
これらの変更に加えて、IFRS第15号は、新しいクラスの資産および負債「契約資産」および「契約負債」を導入しました。
契約資産とは、当社が顧客に譲渡した商品またはサービスと引き換えられる対価への当社の権利として、時間の経過以外の何かによって条件付けられている場合(例: 当社が請求する権利を得る前に一定期間にわたって収益を認識する方法の適用により認識された収益で、IFRS第15号の適用以前は、未請求収益は「未成工事支出金」として報告されていた)において認識されます。
契約負債は、顧客がすでに対価を支払った場合に、当社が商品またはサービスを移転する義務を表します(例: 契約負債には、主としてIFRS第15号の実施以前は「その他の負債」として計上されていた、顧客からの前受金が含まれます )。
個々の契約については、契約資産または契約負債のいずれかが純額で表示されます。
流動または固定の開示区分には変更はありません。
上記をざっと理解したところで、監査人のリスク対応手続を読んでいこう。
我々の監査上の対応
我々の監査手続には、IFRS第15号の収益認識に関連する会計方針の適切性を、一定期間にわたり充足されるか、または一時点で充足されるかといった収益認識のタイミングも含めて評価する手続などが含まれている。また、販売プロセスの内部統制のデザインと実装を評価するとともに、個々の販売取引について、契約における履行義務の識別の適切性、取引価格に含まれる変動対価制約の完全性と評価の妥当性、さらに、長期契約の進捗率の見積りに含まれる実績費用と見積総額費用の合理性をテストした。
民間航空機の売却契約は非常に複雑である。エンジンやスペアパーツなどとパッケージで契約され、さまざまな履行義務の取り決めもある。納入機数などの条件によって価格が変わる変動対価の条項も合まれていると考えられる。従って履行義務を識別し、対価を配分するのは非常に、複雑なプロセスであろうし、マネジメントによる判断や仮定が要求される。さらに長期にわたる契約であるため、総費用と進涉度の見積りは重要となる。
監査人は、収益認識に関する、上記に関連する会社のポリシーを理解するとともに、内部統制のデザインと実装を評価している。
なお、会社のポリシーの理解や、収益認識のプロセスや内部統制の理解にはインダストリーの専門家は利用されていない。監査チームのメンバーにインダストリーに関する十分な専門的知識があると判断したと考えられる。
我々の手続には、適切な期間に収益が認識されたかどうかを評価するための特定時点契約のカットオフテストが含まれていました。
これは実証手続であるが、一つ一つの売上金額が大きいのでカットオフ(期間帰属)の手続も重要である。
2018年12月31日のバックログの監査には、IFRS 15の正しい適用の検証と、開示に示されているバックログの金額と基本的な契約の詳細およびその他のサポート文書との整合性チェックが含まれていました。
長期契約の収益認識においてバックログの検証は重要である。IFRS 第15号の要件を充足しないと、収益認識のタイミングが変わってくるため、財務諸表に大きなインパクトを与えるからである。そのリスクが適切に開示されているかも含めて検証している。
エアバスのKAMでは、監査人の所見といった独立のセクションでなく、監杳上の対応に含めて、手続の結果が述べられている。会計処理や、開示に不適切な点はなかったという結論である。当年度に認識された収益において重大な虚偽表示の証拠を特定せず、財務諸表で適切な開示が行われたと判断した。
(参考) 監査報告書に記載されているKAMの原文 (クリックして読んでください。)
