監査報告書は、ロイヤル・ダッチ・シェルの2018アニュアルレポートの148-169頁に含まれている。
前回はセクション5では、監査人がどのような目的で、どうやって監査範囲を決定するかについて、具体的かつ詳細に説明されていた。今回はセクション5の残りの部分、グループ監査の実施について理解を深めたいと思う。グループ監査については、こちらの記事も参考にしてほしい。
監査報告書のセクション5の原文は、この記事の最後に貼り付けているので、参考にして欲しい。
ISA600「グループ監査」に従って行われるグループ監査では、グループ監査チームが全体をオーバーサイト、監督し、グループ財務諸表の監査意見をサポートするのに十分かつ適切な監査証拠が得られたことを確認しなければないらない。そのため、親会社監査チームは、コンポーネント監査チームに対して監査指示書を発行するとともに、定期的なミーティングを含むコミュニケーションにより進捗を管理するとともに、チームに訪問し、監査調書をレビューするといった手続を行うことが求められている。グループ監査チームには、多数のコンポーネント監査チームに対する監督やコミュニケーションをコーディネーションする担当者がいる場合もある。
グループ監査チームは、グループ財務諸表全体の重要性の基準値を決定し、さらに手続実施上の重要性を決定したあと、コンポーネント監査チームに対する監査指示書の中で、各コンポーネントに適用される手続実施上の重要性を指示する。重要性の基準値と手続実施上の重要性の決定、および手続実施上の重要性のコンポーネントへの配分については、前々回の記事を参照して欲しい。
手続実施上の重要性の、監査範囲内の事業ユニットへの割り当て
監査業務を実施する際に適用した重要性のレベルは、手続実施上の重要性に一定のパーセンテージを乗じて決定された。このパーセンテージは、シェル全体に対する事業ユニットの重要性と、その事業ユニットにおける重要な虚偽表示リスクの評価に基づいている。 2018年、事業ユニットレベルで適用された重要性は113百万ドルから375百万ドルのレンジでした(2017年:40百万ドルから260百万ドル)。選択された事業ユニットと適用された重要性のレンジは次のとおりです。
(クリックして読んでください。)
上の表により、各コンポーネントに配分されている手続実施上の重要性が示されている。グループ全体の手続実施上の重要性が750百万ドルであるので、113百万ドルから375百万ドルをこのように配分すれば、グループの連結財務諸表全体で、未発見の虚偽表示と未修正の発見済み虚偽表示が、750百万ドルを超えることはないという監査人の判断である。その判断にはコンポーネントごとの内部統制の有効性やリスク、過年度の監査結果などを勘案することが必要である。
手続実施上の重要性の各コンポーネントへの配分をここまで詳細に監査報告書で明らかにする例は、あまりない。重要性の基準値と、僅少許容金額については説明するものの、手続実施上の重要性については言及しない例は多い。そのコンポーネントの配分まで詳細な情報を示すことは、投資家の理解に資する情報であるので、このような実務が広がって欲しいと思う。
シェルの監査チームが、グローバルで一体的に運営に関する説明である。グループ監査チームとして、コンポーネントの監査が、十分かつ適切な監査証拠を入手することを担保するためのチーム体制である。
グループ監査チームは、コンポーネント監査チームとミーティングするだけでなく、現地のマネジメントともミーティングしている。これは、グループ監査チームによるリスク評価という意味もあり、コンポーネントの監査人が、リスクに対して職業的専門家としての懐疑心を発揮しているかどうかを評価している。グループ監査チームの一体的運営
全体的な監査ストラテジーは、シニア監査パートナーであるアリスター・ウィルソンによって決定された。 2018年の監査において、アリスターは5か国を訪問し、現地のアーンストアンドヤング(EY)チームや、シェルの現地マネジメントとミーティングをした(場合によっては複数回)。アリスターは、26のセグメントおよびファンクションを担当するオランダおよび英国を拠点とするパートナーとアソシエイトパートナーによってサポートされている。彼らは、EYのグローバルネットワークファーム(現地のEYチーム)が、監査インストラクションに基づいて実施する監査業務を指示、監督、およびレビューすることにより、以下について評価する責任を有している。
現地のEY監査チームの監査手続は、十分に高いレベルで実行され、文書化されているか。
現地のEY監査チームは、マネジメントの主張を十分に批判的に検討し、十分なレベルの職業的専門家としての懐疑心を保持しながら監査手続を実行しているか。
監査手続から得られた結論をサポートするための十分かつ適切な監査証拠が存在するか。
コンポーネント監査チームの監査調書のレビューは重要である。監査調書の作成は、ISA230「監査調書」に従う必要があり、コンポーネントで適切な文書化がされていなければ、
グループ全体としてもISAに準拠していないことになる。グループ監査チームは通常、訪問時のレビューだけでなく、監査の終了段階でも現地で調書レビューするか、あるいはオンラインでのレビューを行っている。
また、下で説明されているように、グループ監査チームは、企業のプロセスやコントロールが親会社やシェアードサービスに集中化、一元化されているような場合などに、コンポーネント財務諸表の勘定残高や取引の一部をグループレベルまたはシェアードサービスレベルで引き受ける場合がある。
BSCは、シェル内のシェアードサービスセンターである。BSCに集中化されている売上、現金、給与といった勘定科目や取引は、コンポーネントで担当するのではなく、BSCの監査チームに集中化させていることがわかる。現地のEYチームの手続きへの関与
シェルは、ビジネス・サービス・センター(BSC)内のキーとなる領域では、プロセスとコントロールを集中化させている。 我々もまた、BSC担当の監査チームを直接的に監督、レビュー、さらにコーディネートする業務を集中化し、専任チームに担当させている。我々の監査チームは、売上、現金、給与などの特定の勘定残高のテストを、BSC内で集中的に実施した。
グループ監査の全体的なアプローチを決めるにあたって、グループ監査チームまたは他の現地EYチームの監査人が、各事業ユニットまたはBSCに対して、それぞれどういった手続を実施するかを決定した。
グループ監査チームは、監査範囲内の62の事業ユニットで直接的に手続を実施した。現地のEY監査人が手続を行った事業ユニットについては、十分かつ適切な監査証拠が得られているとグループ監査チームが結論付けることができるように関与レベルを判断した。グループ監査チームは、監査の各フェーズで現地のEYチームと定期的に対話し、監査プロセスの範囲と方向性について責任をもって、主要な監査調書をレビューした。さらにグループレベルで追加で手続を実施し、シェルの連結財務諸表に対する意見をサポートする十分かつ適切な監査証拠を入手した。
次に、グローバル監査チームと、コンポーネント監査チームとのコミュニケーション、現地経営者とのディスカッションについての説明である。
現地のEYチームの監査手続の進捗と結果を十分に理解できるように、四半期ごとに正式なミーティングを開催することに加えて、継続的なコミュニケーションを維持した。
現地のEYパートナーは、2017年11月のグローバルチーム監査計画ミーティングに出席した。また、2018年には、シニア監査パートナーおよびその他のグループ監査パートナーおよびディレクターが、7か国および各シェルのBSCの営業部門を訪問した。これらの訪問には、現地のEYチームとの監査アプローチおよび彼らの業務から生じる問題、現地のマネジメントとのミーティング、プランニングおよびクロージングミーティングへの出席、リスク領域に関する主要な監査調書のレビューが含まれる。
訪問は、現地のEY監査チームとのより深い関わりを促進し、それにより、一貫した監査アプローチによる高品質の監査を担保できる。
グローバルでのチームの一体運営による一貫したアプローチの適用、監査品質の強化という目的とともに、マネジメントに対して、グローバルでシームレスなサービスを提供するという目的もある。
最後に、グローバル監査チームが訪問した国がリストにより示されている。
この訪問先リストと、上の手続実施上の重要性の配分を示す表を見比べると、シンガポールに訪問しないで、マレーシアを訪問していることに違和感を感じるが、コンポーネントの重要性によって、訪問の頻度を決めていると考えられる。訪問した国々
オーストラリア、マレーシア、英国、ブラジル、オランダ、米国、ナイジェリア
BSC
インド、マレーシア、ポーランド、フィリピン
(参考) 監査報告書(セクション5の該当部分)の原文 (クリックして読んでください。)