エアバスSEの2018アニュアルレポートの3つ目のKAMは、不利な契約に対する引当金の見積りである。
2018年アニュアルレポートはこちらからダウンロードできる。120-125頁の6ページにわたって監査報告書が含まれている。
期間にわたって収益認識される長期契約の場合、トータルで損失が発生する可能性が高いことがわかった時点でその損失を引き当てる必要がある。その見積りのリスクがKAMとなっている。
それでは早速、監査人のリスク評価を読んでいこう。
不利な契約に対する引当金の見積り方法が具体的に説明されている。契約に基づく義務を履行するための費用と便益のそれぞれのキャッシュフローの割引現在価値から引当金の金額を算定していることが説明されている。そのキャッシュフローの見積りのためには、型式証明と、そのための技術開発がいつ達成されるかどうかについて、マネジメントによる様々な仮定や判断が必要であるという説明である。A380のような航空機になると一機500億円といった価格となるので、仮定や判断が財務諸表に与えるインパクトも大きいと考えられる。不利な契約の会計処理と契約マージンに関する見積りと、一定の期間にわたる重要な契約の契約マージンの見積り
リスクの説明
一定期間にわたる契約の進捗度(PoC)を含む、主要プログラムの見積収益と費用に基づいて、契約マージンを評価するために重要な見積りが行われます。
A400MやA380のような不利な契約に対する引当金は、契約に基づく義務を履行するための避けられない費用の現在価値が、契約のもとで受け取ることが期待される経済的便益の現在価値を超える可能性が高くなったときに認識されます。これらの契約マージンと不利な契約の引当金の決定は、利用可能な最良の見積りに基づいており、技術開発の達成と型式証明のスケジュール、生産計画(立ち上げに関する仮定を含む)、パフォーマンス保証、および顧客との継続的な交渉の期待される結果に関する、マネジメントによる重要な判断と仮定が必要です。
財務諸表の注記2「重要な会計方針」、注記3「主要な見積りおよび判断」、注記10「売上および売上マージン」および注記22「引当金、偶発資産および偶発負債」の開示を参照。
参照されている注記のいくつかを読んでいこう。注記10「売上および売上マージン」に不利な契約に関する以下の説明が含まれている。
2018年、同社にとって最大のA380オペレーターは、航空機フリート戦略を見直し、A380の注文を39機削減する必要があると結論付けました。 当社は、2018年後半にこの顧客との協議を開始し、最終的に2019年2月11日に契約書への署名に至りました。 これまで販売、マーケティング活動を続けてきましたが、この顧客の注文が無くなった結果、バックログはほとんどなくなり、このプログラムを継続する意味が失われました。 この決定の結果、A380の納入は2021年で終了します。
当社は2018年末時点において、A380プログラムに割り当てられている特定の資産に関して期待されていた市場の仮定および回収可能性と減価償却方法を再評価しました。 その結果、当社はA380の特定の資産について167百万ユーロの減損を行うとともに、1,257百万ユーロの不利な契約引当金を認識し、合計1,426百万ユーロの前受金と経過利息の測定を更新しました。 その結果、不利な契約に対する引当金ならびにその他の特定の引当金の認識および負債の再測定は、税引前連結損益計算書に純額で463百万ユーロのEBITのマイナスの影響を及ぼし、その他の財務結果に177百万ユーロのプラスの影響を与えました。
また、注記22に不利な契約に対する引当金が開示されている。期首の1,828百万ユーロから、期末残高5,489百万ユーロに大幅に増加している。脚注を読むと、「不利な契約に対する引当金の2018年残高には、主に、A380とA400Mプログラムに関連する引当金が含まれている。注記10「売上およびマージン」および注記21「棚卸資産」参照)、組替/連結グループの変更は、CSALPの買収に関連する負債によるものである。(注記6「買収および合併」参照)」と書かれている。
注記6「買収および合併」には、CSALP買収で引き受けた負債について以下の説明が含まれている。
2018年7月1日、エアバスはCSALPで50.01%のクラスA所有権ユニットを取得し、Cシリーズプログラムのコントロールを取得しました。 ボンバルディアとIQはそれぞれ33.55%と16.44%を所有しています。 エアバスは、2018年7月1日時点より、CSALPを完全連結しました。クロージングにおいて、エアバスは1株当たり1米ドルを支払って純負債を引き受けました。 取得される主な資産は技術と棚卸資産です。 エアバスはCSALPの顧客関連負債を引き受けました。これは主に、未処理の顧客契約、買掛金、前受金、返金可能な前払負債に関連しています。 CSALPの機能通貨は米国ドルですCSALPの取得価額の配分結果が注記6に含まれている。
(クリックして読んでください。)
(3)引当金/取得した顧客契約に関する脚注は以下のとおりである。
取得した顧客契約:これは、取得したすべてのバックログに含まれる顧客契約に関連して、その見積り履行費用が契約上の販売価格を超える金額の現在価値を表します。 見積り履行費用には、売上マージンで認識される直接費用と、予測キャッシュフローの生成に貢献する他の資産に必要なリターンを反映するキャピタルチャージの両方が含まれます。 この負債は、負債の測定において考慮された航空機の納入に基づいて売上原価の減少としてリリースされます。CSALPが顧客と締結した契約上のバックログの履行のための費用が販売価格を上回る金額の現在価値が負債として識別されており、これが不利な契約の引当金を構成していると考えられる。
それでは、この重要な会計上の見積りに対する監査人のリスク対応を読んでいこう。
監査人は、マネジメントの見積りプロセスを理解するための手続として、不利な契約の会計処理や、将来の損失を計算するためのマージンの見積りに関連する内部統制のデザインと実装の評価している。監査上の対応
我々は、不利な契約の会計処理と契約マージンの評価のための内部統制のデザインと実装を評価しました。また、プログラム責任者を含むプログラムチームとの話し合いを含め、個々に重要なプログラムについて実証手続を実行しました。
専門家の利用はされていない。航空機業界は、特殊なインダストリーであるが、監査チームとして十分な専門的知識があるという判断があったと考えられる。
また、企業の開発プログラムチームとのディスカッションを通じて、実証手続を実施したと説明している。見積りのベースとなっているさまざまな数値を、プログラムチームから入手した資料で裏付けるといった手続を実施したと考えられる。
次に、見積りに使われたマネジメントの仮定や判断の評価である。この手続は監査人にとって非常に難しいものである。
我々はとりわけ、プロジェクトの完了ステージの決定、不利な契約が完了するまでの収益と費用、その他の経費などの見積りについてのマネジメントの仮定を評価しました。重要な契約リスクと機会に関するマネジメントの評価に焦点を当て、完成までのコスト予測にこれらが適切に反映されているかどうかを判断し、輸出機会、デリバリー計画、認証スケジュールなどを含む技術および市場の発展に特に注意を払いました。
まずは、どういった状況やリスクが存在し、それらをマネジメントがどのように見積りに反映しているかを理解するプロセスである。完成までのコスト予測に不確実性を与える要素として、どれくらい輸出できるのか、納入計画や型式証明の認証スケジュールなどが重要な仮定であると評価している。
次に、監査人は、それらの不確実性に対するマネジメントの仮定を批判的に検討している。
重要な会計上の見積りのテストにおいては、監査人はマネジメントが過去におこなった判断や仮定と、過去の実績を比較することにより、マネジメントの見積り能力や精度を評価することが求められている。上の説明はその手続を示している。マネジメントとのディスカッションや、顧客とのやり取りをレビューすることにより、マネジメントの仮定を批判的に検討し、過去数年間に行われた同様の見積りの正確さと一貫性を考慮し、仮定を最新の契約情報で裏付けました。
マネジメントの不確実性への対応についての監査人の評価や、感応度分析の結果として、重要な虚偽表示リスクがないという定量的分析まで含まれていれば、さらに具体的な説明になったと思う。
最後にコストに対する詳細テストと開示についての実証手続である。
一定期間のわたる契約および履行義務については、発生したコストの詳細テストを実施し、完了時にマージンが適切に適用されているかについて監査しました。
最後に、財務諸表で適切な開示が行われたと判断しました。
開示については適切だという判断は示されているものの、KAMに対する監査人の手続についての所見は述べられていない。