KAMの事例でコーポレートガバナンス

2020年から日本でも導入されるKAM(Key Audit Matter)。日本では「監査上の主要な検討事項」と呼ばれ、企業の監査における重点領域に関する情報が、監査報告書で報告されるようになる。この監査における重点領域は、いわゆるリスクアプローチによって決定されることから、KAMを理解するためには、リスクアプローチの理解が重要になる。グローバル企業の監査に長年携わってきた監査のプロフェッショナルが、KAMの事例を紹介しながら、社外取締役や監査役などガバナンス責任者、さらに投資家などの方々に、KAMを理解すれば何がわかるのか、そして何がわからないのかについて、できるだけ簡単な言葉で、わかりやすくアドバイスします。

上場企業のガバナンス責任者は、KAMをテコにして、監査法人の監査手続に対する理解を深め、企業のガバナンスを強化することができます。投資家は、KAMを理解することにより、アニュアルレポートによる企業の開示をさらに深く理解することができます。 監査における情報の非対称性を解消し、資本市場の健全化に貢献したい。そのためのブログです。

新会計基準

KAMの事例分析 - (オランダ)ロイヤル・ダッチ・シェル(10)

引き続き、ロイヤル・ダッチ・シェルの2018アニュアルレポートの148-169頁に含まれている監査報告書の中で説明されているKAMを読んでいこう。
今回のKAMは、リース会計基準(IFRS第16号)である。といっても、適用は翌期からで、今期はその適用の影響を開示するだけである。それでもリース資産の重要性が高い場合は、監査において特に注意を払う必要があることからKAMと識別されている。英国のマークス&スペンサーでも同じリスクをKAMとしていたので、監査上の対応に違いがあるのか考えなら読んでいきたい。

KAMの記述はこれまでと同様にリスクの説明からである。監査人のリスク評価を理解しよう。
リスクの説明

リースの認識、測定、表示および開示(IFRS 16

IFRS 16は、2005年にIFRSが採用されて以来、シェルなどの企業が新規適用することが必要となった基準としては、間違いなく最も複雑な基準である。シェルには、IFRS 16の適用範囲に相当する多数のリースがあります。特に以下のような点で、主に複雑性があると考えます。

  • 共同支配の取決め(Joint Arrangement)IFRS 16をどのように適用するか。特に、共同事業のオペレーターが共同事業のためにリース契約を締結する場合。
  • シェルのオペレーティングリースの資産計上するにあたって適用すべき適切な割引率の決定。
  • 複雑なストラクチャーのリース契約に対する適切な会計処理の評価。
  • シェルのような企業には特に問題となるが、莫大な取引数と複雑さに対応できる適切なシステムプラットフォームの構築。
  • この基準は2019年に導入される予定であるが、その導入の影響は、この財務諸表の開示に含まれている。
IFRS第16号の導入にあたって、どういった複雑な論点が生じると監査人が考えているかがわかりやすい。シェルのリース契約の取引件数が莫大であり、金額的に重要性が高いことに加えて、ビジネスの複雑性、さらにストラクチャリングされたリース契約など会計処理に判断が要することが理解できる。

KAMの脚注に相互参照箇所が示されているので、これらを読んでいこう。

相互参照:

監査委員会がIFRS第16号の適用をどのように検討したかの詳細については、116ページの監査委員会報告書を参照。また、「連結財務諸表の注記3」も参照されたい。

まず、監査委員会報告書である。
なお、読者の便宜のため、KAMから参照されているアニュアルレポートに含まれる財務諸表や注記、ISA等の基準などからの引用は、斜字体(イタリック)で示すようにしているので、必要なければ読み飛ばしてほしい。

IFRS 16の導入

181ページの「連結財務諸表」の注記3を参照してください。 

2019年1月1日から、IFRS 16リースに代わりIAS 17リースが適用されます。新基準では、限定的な例外を除き、すべてのリース契約が使用権資産および対応するリース負債として財務諸表に認識されます。シェルは比較情報を修正しない修正遡及的アプローチを適用します。 

適用日に貸借対照表に認識されるオペレーティングリース契約の金額は、未払リース契約、残存リース期間、移行時に適用される割引率など、多くの要因に依存します。 

監査委員会は、IFRS 16の導入に起因する会計方針の変更を評価および承認しました。監査委員会は、主要な判断を含め、シェルの採用への影響に関するマネジメントの分析をレビューし、その提案に同意しました

まずIFRS第16号への移行が修正遡及アプローチによって行われるため、過去の比較情報の修正再表示はせずに、適用年度の期首からIFRS16の影響を反映することにしている。ここは、完全遡及アプローチを採用しているマークス&スペンサーと異なっていることがわかる。また、IFRS第16号の適用によってオペレーティングリース契約が貸借対照表に認識され、その認識額に影響する要因として、残存リース期間や割引率などがあることが説明されている。

次に、注記3「重要な会計方針」の、「未適用であるIFRSの変更」のセクションには次の説明が含まれている。

3. 未適用であるIFRSの変更

2016年にIFRS 16リースが発行され、2019年までにIAS 17リースに代わって採用される必要があります。使用権資産と対応するリース負債が計上されるため、すべてのリース契約が限定的な例外を除き、財務諸表に認識されることになります。シェルは、修正遡及的アプローチを適用します。つまり、基準を最初に適用した時点での累積的な影響は、適用日の期首残高として認識され、比較情報の修正再表示はされません。オペレーティングリースの既存の会計処理と比較して、この基準の適用は、リース費用の分類が変わり、その結果として営業活動からのキャッシュフロー、投資活動からのキャッシュフロー、および財務活動からのキャッシュフローの分類に大きな影響を与えます。また、損益計算書で認識される費用のタイミングにも影響します。それまでファイナンスリースとして分類されていたリース契約に関しては、影響はないと予想されます。 2019年1月1日の新基準の採用は、約160億ドルのリース負債と約156億ドルの使用権資産の追加的認識があるものの、前払リースと以前に認識された不利なリースに対する引当金の再分類が反映されると、資本への影響は無視できると予想されます。

移行のアプローチに違いはあるものの、当期の財務諸表への影響はマークス&スペンサーと大差はなさそうである。従来のオペレーティングリースの会計処理が使用権資産と、それに対応するリース債務の認識という会計処理に変わることで、総資産の金額が160億ドル、負債が156億ドル増加する。重要性の基準値が10億ドルであるから、その約16倍の影響である。ただし、差額の4億ドルが、不利なリースの引当金と、前払リース料の認識が使用権資産に含まれるため、純資産に対する影響は無視できる程度の影響という説明である。

マークス&スペンサーのKAMでは、損益計算書に対する影響についても数量的に説明されていたが、シェルの場合は変更内容についての定性的な説明しかない。重要性の基準値と比較して重要性が乏しいという判断だと思われる。

それでは、監査人のリスク評価が理解できたところで、どのようにこのリスクに対応したのか読んでいこう。

リスクへの対応

シェルに対するリース基準の新規適用の影響を監査しました。 当社の監査手順は、主に次のことに焦点を当てています。

  • シェルのオペレーティングリースの母集団の網羅性、およびすべてのリースがシェルのリース会計ITアプリケーションに適切にアップロードされたことの評価。
  • シェルの複雑な採掘リグのリースストラクチャーに対する会計処理の分析。
  • シェルのリースの資産計上に使用される適切な追加借入利子率の評価。
  • シェルが採用したIFRS 16 ITアプリケーションに関するコントロールフレームワークのテスト。 
リスクへの対応として、監査人はIFRS第16号の適用による影響を、リスク評価で特にリスクを識別した論点を評価している。
まずは、莫大なリース契約件数と複雑さに対応できる適切なシステムプラットフォームの構築に関するリスクに対応するために、また、すべてのオペレーティングリースがリース会計のITアプリケーションに登録されているかどうか、母集団の網羅性をテストすることで評価している。マークス&スペンサーで識別したリスクは、ロジスティクス契約で使用される車両などをIFRS第16号でリース資産として契約しなくてはいけないケースを、もれなく識別することをリスクとして認識していた。どちらもリース資産を網羅的に認識し、会計処理の対象にすることについてリスクを識別している。

さらに、ITアプリケーションのテストとして、コントロールフレームワークのテストをしている。アプリケーションコントロールと、IT全般統制の両方をフレームワークとして評価していると考えられる。
さらに、会計処理上の論点として、採掘リグのリースストラクチャーの会計処理の評価をおこなっている。共同支配事業で保有するリースの会計処理についてもリスクが識別されていたが、採掘リグのリースがそれに該当するかどうかは明確になっていない。
マークス&スペンサーでは、計算プロセスの精度と、データの網羅性や完全性についてリスクを識別しており、ほぼ同様のリスクと考えられる。

さらに、リースの資産計上に使用される割引率として追加借入利子率が適切に算定されているかを評価している。なお、下の監査人の所見の中で、監査人は監査委員会に対して割引率の評価において専門家のサポートを受けていることが説明されている。マークス&スペンサーでも、割引率の評価にバリュエーション専門家を関与させていたが、シェルでも同様のアプローチをとっている。

会計処理に続いて、開示について評価している。開示はIFRS第16号の新規適用の影響を開示するものであり、当期の財務諸表に関係する。

IFRS 16号適用の影響に関する財務諸表開示の監査。このリスクに対処するための監査手順は、主にグループ監査チームによって実施されました。

マークス&スペンサーでは、現行の会計基準(IAS第17号)にもとづくオペレーティングリースのコミットメントの開示との比較を行ったという説明があったが、上記の説明では、おもにグループ監査チームによって手続が行われたことだけが記載されているものの、どのような手続を実施したかは明確でない。

最後に、監査人の所見である。

シェル監査委員会に伝達した主要な所見

我々は、監査委員会に、IFRS 16号の適用を取り巻く重要な複雑性は、シェルのリース負債の計算に使われる妥当な割引率の決定と、多数のリース契約の会計処理をサポートするITシステムの導入であると報告した。 また、我々は、シェルによって採用された割引率を監査において、我々の石油・ガス評価専門家を従事させることにより、支援を受けたことを報告した。 我々はさらに、我々の監査手続では201911日時点において追加計上されるリース債務及び使用権資産は、全体として許容範囲の下限であったものの、許容範囲内であったため手続の結果は満足できるものであったと報告した。

以上の結果、我々は連結財務諸表の注記3に開示されているIFRS第16号の適用による影響の開示はIFRSに従っている適切であると同意する。また、我々は、個々のリース契約を集計し報告するためのITシステムに関連するコントロールが、そのインプットとアウトプットも含めて有効であると報告した。


監査委員会への報告内容とともに、監査人の所見を述べている。IFRS16号の適用を取り巻く重要な複雑性として、割引率の決定とITシステムと述べている。しかしながら、同じくリスクとして識別した共同支配事業のオペレーターがリース契約を締結した場合や、複雑にストラクチャリングされたリース契約の会計処理について、どのような判断をしたのかについては言及していない。

リース契約の会計処理のためのITシステムがインプットとアウトプットも含めて、内部統制が有効であることを監査委員会に報告したと報告している。しかしながら、使用権資産とリース債務の追加計上の実証手続については、許容範囲の下限であったものの、許容範囲内だったと説明している。この許容範囲内という結論が、分析的実証手続を実施した結果、期待値と開示されている金額との差異が許容範囲内なのか、詳細テストで発見された監査差異が許容範囲なのかがはっきりしないところが残念である。

全体的な感想としては、リスクの評価については、インダストリーの特殊性や会計処理の論点を具体的に識別していると感じるが、リスクへの対応について、実施した手続の内容が明確でない部分が含まれていると感じられる。


(参考) 監査報告書に記載されているKAMの原文 (クリックして読んでください。)
RDS_KAM(5)

KAMの事例分析 - (英)マークス&スペンサー(7)

今回は、マークス&スペンサー(M&S)の最後のKAM、 IFRS 第16号「リース」の開示について理解していこう。この記事の最後に貼り付けているKAMの原文を参照すると、KAMのタイトルの横に上矢印のマークが付されているので、このKAMは、当期の監査で新たに識別されたものであることがわかる。その他のKAMはすべて右矢印のマークであり、前期の監査から引き続き識別している。M&Sの最初の記事で説明したように、監査報告書の冒頭の監査アプローチのサマリーの中で、これらのマークの説明があるので、参照して欲しい。
なお、監査報告書の原文は、マークス&スペンサー2019アニュアルレポートの81-90頁に含まれている。

IFRS第16号「リース」は、当期は適用されておらず、翌期から適用される。ただし、当期の財務諸表には、その影響がIAS第8号に従って開示されており、その開示の適切性がKAMとして識別されている。
新会計基準の影響が当期の財務諸表注記に開示されているとはいえ、IFRS第16号は、当期の貸借対照表や損益計算書、さらにはキャッシュフロー計算書にも反映されていない。KAMの定義は、当期の財務諸表の監査において監査人が特に重要と判断した事項であるので、当期の財務諸表では影響の開示しかない事項について、監査人がKAMと判断するほどのリスクがあるのかという疑問はあるかもしれない。

しかしながら、マネジメントにとっては、リース会計基準の新規適用は、システム変更を含む内部統制の整備を必要とし、その対応には多大なコストと準備期間を要する。また、既存のリース契約の再検討など、マネジメントによる判断も必要とするため、適用前に十分な検討を行うことは非常に重要である。さらに、監査委員会も重要な事項として検討している。監査人としても、仮に翌期において新基準に関するマネジメントの判断やシステムに問題を発見したとしても、マネジメントが対応が間に合わないリスクを考慮する必要があったと思われる。そのため、当期の監査において十分な検討を行うとともに、KAMとして識別したものと考えられる。

それでは、KAMの記載内容を理解していこう。

KAMの内容

2019331日からIFRS 第16号「リース」を採用に先立って、当グループは、新しい会計基準が貸借対照表に与える影響の評価を完了した。 2019330日現在のIFRS 16の予想される影響は、財務諸表注記1に開示されている。 IFRS16の影響を評価するにあたって、多くの判断が適用され、見積りが行われた。これは、アニュアルレポート5051頁に記載されている監査委員会が検討した重要な事項に含まれている。IFRS 16の移行の影響を計算するために、重要なデータ抽出の演習が行われ、それぞれの入力がマネジメントのモデルにアップロードできるように、すべての不動産および機器のリースデータを集約した。 リースの計算利子率が容易に決定できない場合、追加借入利子率(「IBR」)法が採用されている。

注記1「重要な会計方針」の「現時点で未適用の新会計基準」のセクションで言及されている新会計基準のうち、IFRS第16号だけが財務諸表に重要な影響があると説明されている。 

IFRS 第16号「リース」は、2019年1月1日以降に開始する期間に適用されます。グループは2019年3月31日から新しい財務報告基準を採用します。2020年3月28日までの52週間の財務諸表はIFRS 16に基づいて最初に作成されます。グループは、完全遡及アプローチを採用することを決定しました。これは、現時点で比較対象期間も修正されることを意味します。

IFRS 第16号「リース」の適用の影響 

リースの借手としての影響は、次のとおりです。

  • IFRS 第16号はオペレーティングリースとファイナンスリースの区別を取り除き、将来のリース債務に対する使用権資産および対応する負債の認識を要求しています。使用権資産はその後、リース期間にわたって定額法で減価償却されます。利息はリース負債に認識されます。これにより、現在オペレーティングリースとして分類されているリースの費用が早期に認識されますが、リース期間中、認識される費用の合計は変わりません。 

  • 当グループが認識している使用権資産は、不動産、自動車および機器、さらにロジスティクス契約で使用される資産で一定の要件を満たすものなどで構成されています。当グループは、少額のリース資産について使用権資産およびリース負債を認識しないことを選択しており、これらの資産に関連するリース料は定額法で費用として認識される。さらに、ターンオーバーリースと呼ばれる売上高をベースにリース料が決まる変動対価を伴うリースの金額は、引き続き定額法で認識されます。 

リースの貸手としての影響は次のとおりです。

  • 以前はオペレーティングリースとして分類されていたサブリースは、本体のリースから生じる使用権資産に関連する残余期間の契約条件を考慮して再評価することが求められます。当グループは、特定のサブリース契約をファイナンス・リースに再分類市、リースへの純投資を認識する予定です。その結果、サブリース収益の認識のタイミングは変更されます。 

2019年3月31日現在、貸借対照表に大きな影響があります。税引前ベースで、約17億ポンドの使用権資産と約26億ポンドのリース負債が認識されることが予想されます。約2億ポンドの不利なリースの引当金および約4億ポンドのその他の運転資金残高(リースインセンティブを含む)の認識の中止により、利益剰余金の全体的な調整は約3億ポンドになります。 


減価償却費の方がリース費用に小さいため、リース費用が減価償却費に置き替ることにより利益調整前の営業利益とEBITは増加します。税引前利益および調整項目への全体的な影響は、リースポートフォリオに含まれるリース契約の経年数がどの程度進んでいるかに拠ります。2019年3月30日に終了した52週間への影響額を10百万ポンドの位で四捨五入すると: 

  • IFRS 16を適用した場合の税引前利益は、現在のIAS 17リースを含む会計基準で報告されたものよりも10百万ポンド高くなります。

  • 調整項目を除いた税引前利益は10百万ポンド減少します。 

  • 税引前の営業利益と調整項目は130百万ポンド高くなります。

IFRS第16号の適用には、営業活動キャッシュフローから財務活動に使用されるキャッシュフローへの再分類が必要ですが、グループ全体へのキャッシュフローには影響ありません。 


グループは、新会計基準適用の影響を評価し、監督するためのワーキンググループとステアリング委員会を設置しました。新会計基準の導入は、新しいリース契約が新会計基準の範囲に含まれているかどうかの判断の評価を含め、新会計基準の要件が引き続き満たされていることを確認するための内部統制とガバナンスフレームワークの実装を含め、完了に近づいています。

財務諸表にどれくらいの影響があるかであるかを理解しよう。貸借対照表上への影響であるが、まず資産側に使用権資産が17億ポンド、それに関連するリース債務が負債側に26億ポンド計上されるのが大きい。差額は減価償却されているので利益剰余金が減額されるが、従来のオペレーティングリースの会計処理で認識されていた不利なリースの引当金などが使用権資産と相殺され、利益剰余金への純額での影響は3億ポンドとなる。重要性の基準値は20百万ポンドなので、総資産への影響はその約85倍ということになる。一方、損益計算書は、リース契約の経年数が進んでおり、減価償却費がリース料を下回ることから、税引前利益は10百万ポンド増加するが、その影響は重要性の金額の半分程度である。

監査委員会もIFRS第16号の新規適用に関するリスクを
特に検討した重要なリスクとして報告書で以下のように説明している。

IFRS 16 

IFRS 第16号「リース」は、2019年1月1日以降に開始する会計期間から適用されます。グループは、2019年3月31日から2020年3月28日に終了した52週間の財務諸表の作成から新しい基準を採用します。当グループは、完全遡及アプローチを採用することを決定しました。これは、現時点で比較対象期間も修正されることを意味します。借手として、IFRS第16号はオペレーティング・リースとファイナンス・リースの区別を削除し、将来のリース債務に対する使用権資産および対応する負債の認識を要求しています。詳細については、財務諸表の会計方針セクションを参照してください。監査委員会は、新しい会計基準の影響についての概説を、影響額の見積りにおける判断および主要な仮定も含め、マネジメントから定期的なアップデートを受け取りました。監査委員会はマネジメントの検討をレビューした結果、これらが適切であると考えています。

なお、監査委員会は、IFRS第16号を含む、特に検討した重要な事項については、外部監査人であるDeloitteから詳細な報告を受けていることを監査委員会報告書で述べている。

KAMの中で言及されている監査人のリスク評価は以下のとおりである。

私たちの重要な監査事項は、次のリスク領域に焦点を当てた。

  • 移行の影響の計算に、IFRS 16号が適用範囲に含まれるリース契約が特定されていないか、適切に含まれていないリスク。
  • 各リースの割引率を決定するために適用される特定の仮定が不適切なリスク。

IFRS第16号のリースの定義では、注記1で言及されているように、ロジスティクス契約で使用される車両などの資産をリース契約として新たに識別する必要が生じるなど、これまでリースとして識別していなかった契約がIFRS第16号ではリース契約であったりする。そのような契約がすべて識別され、適切に判断されているかどうかというリスクである。
また、割引率については、リースの契約利子率または、借り手の追加借入利息が適用されるが、その判断や仮定が適切かどうかというリスクが識別されている。

  • 移行の影響を計算するために使用される基礎となるリース契約のデータが不完全および/または不正確であるリスク。
  • リースの計算プロセスの精度が不十分なリスク。 
  • 財務諸表開示が不十分であり、投資家が会計基準の変更の移行の影響について明確な理解を得ることができないリスク。
開示されている新会計基準適用の影響の計算が、完全なデータに基づいて正確に計算されていない、またリースの計算プロセスに十分な精度がないリスクが識別されているが、適用前であることから、あくまで開示の目的で十分な精度かどうかというリスクではないかと思われる。
また、IAS8号に従った開示が不十分であり、投資家が影響について明確な理解ができないリスクが識別されている。

IFRS第16号適用の影響の開示が適切でないリスクとして、マネジメントの仮定や判断の適切性から、計算プロセスまで、広範囲なリスクが識別されていることがわかった。つぎに、これらのリスクに対して、監査人がどのようなリスク対応手続を実施したかを理解しよう。

KAMに対応するため、次の監査手続を完了しました。

  • IFRS 第16号への移行影響開示の決定に関連する主要なコントロールのデザインと実装を評価した。
  • バリュエーション専門家からの情報により、リース負債の算定に適用される割引率の適切性を評価した。
  • リースの代表サンプルを元の契約またはその他のサポート情報にトレースすることにより、裏付けとなるリース契約のデータの正確性を検証し、IFRS 16で必要になる帳簿の調整額の再計算資料からサンプリングされた各リースのIFRS 16計算プロセスの完全性と正確性を検証しました。

新会計基準への以降の影響開示に関連する内部統制の評価を行っているが、新会計基準の適用は、ルーティーン的に行われるプロセスではないため、内部統制は十分に整備されていないことが多い。監査人が具体的にどのようなコントロールのデザインと実装を評価したのかはわからないが、少なくとも新会計基準の適用に関連する内部統制を識別することにより、マネジメントが、どのように新会計基準の開示の適正性を確保しようとしたかは理解できたはずである。
また、リース負債の算定に適用される割引率の妥当性については、専門家を利用していることが説明されている。IFRS第16号が適用される前に、専門家に妥当性を検討させることは有用であると考えられる。
次に、開示に対する実証的手続である。

  • 帳簿残高調整と、オペレーティングリース契約のコミットメントの開示(財務諸表の注記25に開示)を比較するとともに、主要なサービス契約がIFRS 第16号のもとでのリース契約が含まれるかどうかを評価することにより開示の完全性を検討しました。 
  • IAS8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」の要求事項に照らして、財務諸表開示が適切かどうかを評価した。
現行のリース会計基準に従って、当期の財務諸表注記25に開示されているオペレーティングリースのコミットメントとIFRS第16号の帳簿残高調整とを比較することにより、開示の完全性を検討している。
さらに、IFRS第16号の影響がIAS第8号の要求事項を満たしているかを検討している。


最後に監査人の所見である。

監査人の主な所見

IFRS 16号の予想される影響の開示は、グループの規定された会計方針に準拠しており、財務諸表注記1に記載されているこれらの項目の関連する開示は適切である。

IFRS第16号適用の影響の開示が適切であるという所見である。また、グループの会計方針に準拠しているという説明であるが、これは翌期に適用される会計方針ということであろう。


全体的な感想としては、KAMとして識別したリスクや、リスク対応手続としては、十分な内容が開示されているように思われる。

M&S_KAM(6)
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